インタビュー 編集部が注目するデザイナー・クリエイターのアイデアと実践に迫る

紙の可能性を追求する、「かみの工作所」のものづくりにかける想い

紙の可能性を追求する、「かみの工作所」のものづくりにかける想い

印刷会社が見出した、デザインの新しい可能性

2015/07/29

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印刷から加工まで一貫して製造できる工場として、東京・多摩の立川市に創業して50年の福永紙工。2006年からは新たな取り組みとして、デザイナーや建築家などと組み、紙を印刷・加工してできることの可能性を探る5つのプロジェクトを立ち上げてきた。その中のひとつ、「かみの工作所」が2010年より展開する「空気の器」は、広げ方により自由に変形可能な紙の器という発想と、デザイン性が大きく評価され、今やヴィクトリア&アルバート博物館や、メトロポリタン美術館でも展開されるほどだ。メディアや展覧会で、一度は目にしたことのある人も多いのではないだろうか。今回、この「かみの工作所」にスポットを当てつつ、ものづくりにかける想いについて、福永紙工の代表取締役の山田明良氏と、常務取締役の山田祥子氏にお話を伺った。

印刷会社が見出した可能性

福永紙工は、現在5つのプロジェクトを立ち上げて展開しています。2006年にスタートした「かみの工作所」。2011年に「かみの工作所」から独立してブランド化させた「テラダモケイ」。これは建築家の寺田尚樹さんとの恊働プロジェクトで、1/100建築模型用添景セットを通して、組み立てのプロセスや造形美を楽しんでもらうものです。そして、アーティストの鈴木康広さんとのコラボレーションである「マバタキノート」、紙の組み立てキットの子ども向けブランド「gu-pa」、世界の名作椅子を1/16で再現する「ONETOSIXTEEN」です。いずれも「紙」をキーワードに、紙を印刷・加工してできることの可能性を考えるプロジェクトです。

福永紙工・山田明良代表取締役
福永紙工・山田明良代表取締役

今でこそ多くのプロジェクトの企画・販売に取り組んでいますが、もともとは厚紙の加工や打ち抜き専門の工場でした。それを先代の社長が、印刷と一貫して行えるようにと、この立川に福永紙工を創業したのが1963年。私(山田明良氏)が入社したのは、今から25年前の1990年です。それまではアパレルという180度真逆の業界にいたのですが、ちょうど結婚のタイミングで福永紙工に入社しました。ところが、商習慣も営業スタイルもまったく違う業界なので、数年間は水が合わず、かなり違和感もありました。ただ、デザインやアートがもともと好きだったことがあり、その土壌で何かやりたいという沸々とした想いは、当初から抱いていました。

印刷会社も昔は仕事が山ほどあったので、機械をまわしてどんどん生産していればよかったのですが、ここ10年はシュリンクの激しい業界です。さらに、企画・提案力がことさら重視される時代にもなりました。そんな訳で、私たち印刷会社も、何かデザインにかかわることで活路を見出せないかと考えたんです。ところが、具体的な提案をしてみてもなかなか通らず……という日々が続きました。

福永紙工・山田祥子常務取締役
福永紙工・山田祥子常務取締役

運命を決定づけた出会い

試行錯誤が続くなか、ある時ふらりと入った文具店での出会いが突破口になりました。東京都国分寺市に、「つくし文具店」という文具店があります。住宅街の一角にぽつんとある店で、ちょうど2004年のリニューアルオープン当時、ひょんなきっかけで立ち寄ったんです。それが、現在ディレクションにかかわってもらっている、「つくし文具店」の店主でもある、萩原修さんとの出会いでした。

「かみの道具展」のインビテーションカードほか
「かみの道具展」のインビテーションカードほか
東京・立川市にある福永紙工、印刷から加工まで一貫して製造
東京・立川市にある福永紙工、印刷から加工まで一貫して製造

萩原さんもそれまで10年間務めた会社を退職、独立して、実家のある多摩エリアで「地域とデザイン」というテーマで新しいことを始めたタイミングだったので、話すうちに意気投合。何か一緒にやろうということになり、後日私たちの工場を見学に来てもらいました。長年展覧会の企画などに携わっていた萩原さんは、“地域”ということをとても大事にしていて、「多摩地域をデザインの力で盛り上げたい」という想いが軸にあるので、互いの気持ちがちょうど合致したのです。

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