クリエイティブのタテ軸ヨコ軸

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vol.02 大塚いちお(イラストレーター・アートディレクター)

vol.02 大塚いちお(イラストレーター・アートディレクター)

さまざまな方向に広がる仕事に、少しの遊びを潜ませて

イラストレーションのみならずデザインやアートディレクションまで手掛ける大塚いちおさん。そんな大塚さんの最新作は、10月9日に関西テレビ系でスタートする家族愛を描くドラマ「ゴーイング マイホーム」のキャラクターデザインです。インタビュー後半では、是枝裕和監督とのやり取りを含めたそのキャラクターデザインの制作秘話や、大塚さんと仕事の取り組みについてお聞きしました。

最新作「ゴーイング マイホーム」のキャラクター制作について

監督とのエピソードに笑顔がこぼれる
監督とのエピソードに笑顔がこぼれる

このドラマのキャラクターデザインと絵本『クーナ』の制作はとても楽しかったです。脚本を手掛けた是枝裕和監督とは数年前からのお付き合いで、今回はストーリーの鍵になる「こびと」をデザインしてほしいとの依頼をくださったんです。別件で打診されていた是枝監督と絵本を共作する話もあったので、それなら一緒にしてはどうかと提案しました。
僕は監督の作品が持つ、心地良いすき間と神経質になりすぎない雰囲気が大好きなんです。だからこのやり取りで、監督の価値観が近くに感じられたり、共感しあえたりしたのが本当に嬉しかったんです。

「こびと」というと伝説や宗教色が出がちだけど、もっと現代的な「その靴どこで買ったの?」なんてツッコミ所のあるマヌケさを作ったり、ニヤリとできる部分を出したいね、なんて話をよくしました。普段の仕事でもちょっとした遊びを探す方でしたが、この楽しさをより強く感じられたのは大きかったです。
ちなみに最初に提案したのは、伝統的な編み上げではなく大きなファスナーがついたこびとの洋服でした。登山者が落としたフリースかも、と暗示させたり現代感を象徴できそうだと話したのですが、監督からから缶のプルトップのアイデアを提案された時は嬉しかったですね。またイヌイットなどの民族テイストもありかと思っていたのですが、アイヌ民族を郷愁したものはどうかな。というアイデアを監督からいただきました。なので、一見アイヌ風の柄だけど模様に少し軽いイメージを与えたかったのでちょうちょが紛れていたりするんですよ。そういう細かなやり取りをしつつ、認識を詰めていけたのもよかったですね。

新しい挑戦を楽しもう

いろいろな素材で作られた「みいつけた」のサボさんぬいぐるみ
いろいろな素材で作られた「みいつけた」のサボさんぬいぐるみ

今までに色々な表現を扱ってきましたが、新しい取り組みに不安を感じたことはそうないです。絵を描くことの延長線上にあることだったから、楽しむ気持ちの方が強いというか。誰にでもおすすめする訳ではないですが、殻を破ることをそんなに怖がる必要はないんじゃないかと思いますね。いい意味で夢を見ることは次につながります。だからもし、自分に何かの可能性があると感じていて、広がりが想像できる作品があるなら、次のステップに向かうのもアリじゃないかな。元の場所になんていつでも戻ってこれますしね。
僕らの仕事は、フリーでも登録でも誰かに呼ばれて初めて成立する仕事ですよね。期待に応えられるかな、自分以上にうまい人がいるかも…と思うことはもちろんありますよ。ただ、無責任な話だけど、呼ばれることは自分の責任ではないと思うんです。一度呼ばれたならもう余計なことは考えず、自信を持って要望や希望に一つずつ応えていけばいい。例えば、僕の場合なら、たいていその場には自分しかいないからとにかくやるしかない、じゃあそこで楽しむにはどうすればいいか、って感じで意識が変わっていくんです。だからとにかく、そういう場面では自分の感じるがままに進んでいけばいいと思っています。

楽しみなこと、将来のこと

「やっぱり絵を描いている時が一番落ち着きます」
「やっぱり絵を描いている時が一番落ち着きます」

最近はテレビだけでなく、広告でもADとして関わる機会が増えています。呼ぶ側も呼ばれる側の気持ちもわかるから、今以上に大規模で面白い作品ができそうだという可能性を感じています。今までに接点のなかった分野のクリエイターも呼べたら、メディアにも囚われず、僕の頭にある世界の実現がより上手にできるかもしれないでしょう? それが今の一番の楽しみです。それに、これまでのADは広告を基準にしてきたけど、今後はそういった区分もなくなってくる。そうなれば、さらに新しい、面白いことができるはず。でもその一方で、ものすごく小さなお店をプロデュースするというような、まったく別の表現についても気にはなっています。

昔自分が小さな机の上で絵を描き考えていたことがどんどん形になるんですから、規模に関係なく楽しみなことは多いです。
10年後は何してるかな…。頭の中の世界は広がり続けているだろうけど、最前線で指示したりすごい熱量で絵を描くことは今より減るかもしれない。僕は「白い紙に鉛筆で描くこと」からスタートしたから、終着点もそこに向かいたいんです。よぼよぼになっても、ホテルか自宅のキッチンで朝食後に白い紙に少しずつ好きな絵を描き、それを仕事にする。なんて生活ができたら幸せだなって。だから、10年後はそこに向かう過程にあるのかもしれませんね。

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