発想、素材、技術 × 装飾用シートで
デザインの可能性を創造するCSデザイン賞
2014/09/10 UPDATE
Vol.1貼れる、剥がせる、透過する、反射する。装飾用シートの特性を生かす
さまざまな色と光で、空間に表情を与えるカッティングシート®(以下CS)。着色され、粘着性を持たせた塩ビシートである。空間デザインを手掛ける人には馴染みのあるシンプルな素材だ。シンプルであるがゆえに、料理のしがいがある。“ガラスや壁を彩る”、“文字情報を落としこむ”といった基本的な使われ方でも、素材の特性を理解したクリエイターの手にかかれば、効果の高い空間演出が可能だ。人々が思わず足を止める美しいデザインを作り、訪れる人をその先へと導く空間へと変貌させることができる。
CSのリーディングカンパニーである中川ケミカルが主催するCSデザイン賞は、CSを用いたクリエイティブなデザイン表現をみいだし、そのアイデアを発信するアワードで、今回の第18回で32年を数え、現在はビエンナーレ(2年に1度)の形式で開催されている。
一般部門では、CSおよびそれに準ずる装飾用シートを使用し、指定期間内に実際に制作された作品を対象とした。グランプリを受賞したのは、美術館改修プロジェクトの「市原湖畔美術館サイン計画」である。複雑に入り組んだ館内の壁には、迷わないようにと白い波線の矢印。透明なガラス面や凹凸の大きな波板に描かれる矢印にCSが用いられている。また、手をかざすと開くセンサー式の自動ドアのピクトグラムは見た目にも分かりやすく、来館者が自らの意思で建物の一部を操るような感覚を与える。
貼ってはがせる特性ゆえに、CSは展覧会との相性が良い。準グランプリの3作品のうち、2作品は展覧会の内容とも深く関わっている。一つ目は、グラフィックデザイナー田中一光氏の軌跡をたどる展覧会の中のインスタレーション。田中氏が商品の色彩選定を行った100色のCSと150色のタント(色紙)を、会場壁面から中庭へと色の帯が突き抜けるように敷き詰めた。
二つ目は、アートプロジェクトだ。既存漢字の筆画を間引くことでひらがなやカタカナ、アルファベット等に置き換える“換字”を主としたイベントに用いた。空間に配置された換字は記号へと形を変えているが、床に散らばった片割れの存在に気付いたとき、それらをテキストとして読み、また、空間の関係をも読み解くことになる。展覧会終了後には、プロジェクトに使用されたCSの文字を集めて各自、言葉をつくって持ち帰るワークショップを行った。
また、CSは建築ファサードにも多用される。三つ目の準グランプリには、50メートルに及ぶテナントビルの無機質なカーテンウォールに対し、装飾的な建造物のイラストのレイヤーで全体を包み込むファサードデザインが選ばれた。ガラス面にCSを施した黒いレイヤーと、テント生地にインクジェット出力した白いレイヤーの2層を使うことで、独特の立体感を作り出している。