伝統と革新のデザインの融合 ドイツのコンテンポラリージュエリーにみるクラフトマンシップ

創業140周年
「究極のシンプル美」を追及するNiessingのデザイン哲学

2013/10/16 UPDATE

Vol.4優れたデザインを作り出す秘訣

Niessingチーフデザイナー、ティモ・クシュラー氏
Niessingチーフデザイナー、ティモ・クシュラー氏

Niessingでは、製品が販売されるまでに厳しい4つの試験に合格する必要がある。1つめは人々を惹き付ける魅力があるか、2つめは着用感や価格設定が適切かどうか、3つめはデザインの背景にあるアイデアが表現できているか、4つめはブランドにふさわしいかどうか。こうして精査された結果、不合格であれば販売は行われない。開発段階から幾度も定期的なミーティングで厳しく査定され、最終段階に到達できるのは、わずか10%ほどだとか。

「開発から店頭へ並ぶまでに半年から1年、なかには2年もの期間を必要としたアイテムもあります」と語るのはチーフデザイナーのティモ・クシュラー氏。現代では、どの分野であっても製品化に至るまでの工程や期間に効率化を求めるのは当然のこと。しかし、素材の魅力を最大限に引き出し、デザインとして昇華させるため、Niessingでは試験に多くの時間を掛けると共に、制作過程においても実にアナログなアプローチを行っている。

「デザインの立ち上げから製作段階において、デザイナーは、ワークショップと職人のいる工房を何度も行き来します。膝と膝をつき合わす状況の中で行われるクリエイションが、ひとりよがりのエゴではなく、きちんと理にかなったデザインを生む大きな要因となっているのです。Niessingの持ち味である素材の魅力を最大限に引き出すデザインを生むためにも、大きなメリットがあります。職人達が生み出した新しい地金や技術を直に目にすることが、新しいデザインのヒントになるからです」

Niessingマーケティングディレクター、トーマス・ニュニング氏
Niessingマーケティングディレクター、トーマス・ニュニング氏

そうした中で築かれていく密な人間関係も、クリエイションに良い影響を与えているという。3世代にわたり働く職人もいるNiessingだが、従業員はみなファミリーのように親密な関係なのだとか。まさしく“古き良き”といった言葉がぴったりだ。それは単なるノスタルジーではなく、Niessingが理想とする身に着ける人の個性を引き出すデザインを生み出すためには、欠かせないことなのだ。

「The Niessing Ringのように美術品として評価を頂いたデザインもありますが、私たちは芸術作品を作り出そうとしているのではありません。目指しているのは、身に着ける人の感性を刺激し、それをより魅力的に輝かせるきっかけとなるデザインです。バウハウスの理念である“形態は機能に従う”とは、形状として必然性のあるデザインを求めるべきという意味ですが、これはすなわちプロダクトは使う人のためのことを想定したデザインであるべきということ。その結果生まれたのが、身に着ける人の個性を引き立たてるNiessingのデザインです。移り変わるトレンドに迎合するだけのデザインでは、身に着ける人にずっと寄り添い続ける存在になれないですから」と語るのはマーケティングディレクターのトーマス・ニュニング氏。

青山店リニューアルオープンのパーティでは、ドイツ・フレーデンの工房から、金でできたメダルが記念に贈呈された。そこには、Niessingの従業員が各自1文字ずつ打ち込んだメッセージが刻まれている。Niessingのジュエリーが、金属という堅く無機質な素材ながら、どこか柔らかさと温かみを感じさせてくれるのは、単にデザインや質感の工夫だけではなく、職種を超え、国を超え、人と人とのつながりを大切にするバックグラウンドが影響を与えているに違いない。

記念のメダルには、Niessing本社のスタッフが1文字ずつ打ち込んだメッセージが刻まれている
記念のメダルには、Niessing本社のスタッフが1文字ずつ打ち込んだメッセージが刻まれている
ファミリーのように親密な関係で、クリエイションにも影響を与え合うNiessingのスタッフ
ファミリーのように親密な関係で、クリエイションにも影響を与え合うNiessingのスタッフ

NIESSING

INDEX

受け継がれるニーシングセッティング技術

VOL.1

受け継がれるニーシングセッティング技術

モダンジュエリーメーカーへの軌跡

VOL.2

モダンジュエリーメーカーへの軌跡

モダンジュエリーメーカーへの軌跡

VOL.3

店舗デザインにみるフィロソフィーの表現

優れたデザインを作り出す秘訣

VOL.3

優れたデザインを作り出す秘訣