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2000年度 1期 桑沢デザイン塾<特別講座>デザインの21世紀 12


松岡正剛+内田繁

 
半年間、11回にわたり、各分野から講師を招き行われた特別講座「デザインの21世紀」。
最終回は、松岡正剛氏と内田繁氏の対談です。

内田氏が「『コンピューターは我々の社会に何をもたらすのか』『IT時代のデザインのあり方とは』という要素が今までの講義で薄かった。今日はそれを松岡さんに聞きたい」と話を切り出します。


個人化する社会

「皆がコンピューターを相手にすることで個人化し、普遍性や‘連’を感じなくなっている」と松岡氏。無数にあふれる携帯電話やパソコンのデザイン。「それが全部孤立して、何の自信もそこから生まれない」。

内田氏は「柏木博氏は『社会そのものが成立しないだろう』と言ったがそうなのか? そんなに個化して、果たして人間は生きていけるんだろうか」と問います。「人間はそこまで個になりえないし、それほど強くない」と松岡氏。
古代から世界中の書物で、同じ命題が取り上げられてきました。日本では九条兼実*1や『徒然草』。その中で‘無常観’という思想が解決策となります。しかし「個化に歯止めをかける、対抗するものを生むというムーブメントや兆しが今は少ない」(松岡氏)


内田氏が語る‘個の超越と回復’

「60年代に個を叫んだのは、集団社会に対する歯止めだった」。
ソットサス*3はデザインを「恋人に花束をプレゼントするようなものだ」と個人の重要性を語っています。しかし今「そこから個人はますます離れていっている」。氏は個の持つ可能性が広がることを期待して、「‘集団対個人’など対立的構図ではなく、個は個を超越できるのでは」と言います。

「今、イギリスのデザイナーたち*4が面白い。コンピューターをツールとして利用するだけではなく、その向こうにあるものを表現している。彼らのデザインには、透明感、無重力性、光、非固定性がある。素材や‘椅子である’ということ、自分の立場などという属性も超越している。彼らは、個を乗り越えて新しい個を見ている気がする」。

松岡氏が語る‘量で個を超える’

「個が個を超えるような力になるためには、ある程度の量が必要。携帯電話や車、服などでは、世の中が量を用意するが、その量を自分なりの方法で超えていく、自分なりの質に変えるスピードで量を相手にする方法が必要」。
たとえば日比野克彦氏は一人の人間が関わる量にしては、膨大といえる創作をしています。「その計算が合わないあたりから個を超える」のです。

Webに毎日書いている自身の書評を例に「ものすごく集中していないと量は生み出せない」と松岡氏は言います。そしてある量を積み重ねると、その過程で「自分の中の小さな変化に克明に立ち会うことができる」。田中一光氏が大切だと言った‘判断力’も、繰り返しによって生まれるのです。

「養老孟司氏が‘人間は変化し続ける’と話したように、繰り返せばいくらでも違う人間になれる」。「社会や世の中を読むには、自分のやっている量、スピード、閾値(いきち)を可変状態に置かないといけない。そのように個を活性化するのが面白い」と松岡氏。


会場からの質問をきっかけに、更にさまざまな話題に及びます。

「磁器技術が日本に入っていない時代に、日本人は青磁・白磁を思い浮かべつつ、憧れ続けていた。その技術が分からず、似たものを何とか土で作ろうとした。それが日本の焼きものを作った」。
「カテドラルやゴシックを日本には作れないから、平面の二畳台目(にじょうだいもく)を作ったと解釈するのではない。実は日本人は、ゴシックを良いと思って、ゴシック的なものを自分の中に ── コンピューターや焼きもの、椅子、空間の中に ── 作っているのだと見た方がいい。テクノロジーと和の関係を根本的に問い直さなければならない」。(松岡氏)

「おそらく明治期から今日まで一番引っかかってきた問題は、和と洋の二重構造を前提に考えていたことだと思う。しかし『この二重構造はないんだ、もう融合しなければ』という傾向は、日本の近代デザインの中にたくさん出てきている。日本人が持っている感覚的なオリジナルと、西洋が持っているもの、つまり近代のテクノロジーは充分融合し始めている。テクノロジーをもっと積極的に使わなければ。テクノロジーにさんざんやられたから、テクノロジーで落とし前をつけるしかない」。(内田氏)

「一番面白いのはハッキングテクノロジー。できあがったテクノロジーから逆の旅をたどれるというところに、また一つのテクノロジーが生まれつつある。これはリバースエンジニアリングと呼ばれるもの。インターネットという膨大な存在において、セキュリティや管理を、革命的な意志によって解体することは可能だろうか」。(松岡氏)

「ローテクな創作をしながら、何らかの形でデザインと社会、人間、自然に自分が関わり合うスタンスを持ち、自分を深めていっている人々がこれまで登場した。今日は、創造はどれだけテクノロジーが発達しようと、皆さんの頭の中にあると言いたかった」と内田氏が最後にまとめます。
多くの視野からデザインをとらえ直し21世紀を考えた全12回の特別講座は、盛大な拍手と共に幕を閉じました。

CLEAR.GIF 松岡正剛氏
松岡正剛氏
「今の人々はすぐ自己否定に走る。樂さんのように一個の茶碗に向かうのを持続し、支える哲学は欠けている」(松岡氏)

内田繁氏
内田繁氏
「日比野(克彦氏)が健康的で良いな、と思ったのは、馬鹿馬鹿しいことを繰り返しやる、人にもやらせる。彼はローテクなコミュニケーションの中でクリエイティヴのスタート地点は個だと言う。彼のやっている個と、今メディアで流れている個とは全く反対のものだ」(内田氏)

 

 

 

講演

 

 

 

 氏講演

*1 九条兼実(1149〜1207):くじょうかねざね、平安末・鎌倉初期の貴族・政治家。摂政・関白、従一位太政大臣、藤原一族。日記『玉葉』は個の時代の政治・社会・公武関係(平氏、源氏の台頭時期)などの重要資料。

*2 エットーレ・ソットサス Ettore Sottosass 1917〜:家具を対象に選び、衝撃的色彩や大胆な形態を提案したデザイン運動、メンフィスの中心となったデザイナー。メンフィスは、全世界に影響を与え、ポストモダンの例としてしばしば引き合いに出される。

*3 イギリスのデザイナー:内田氏はロン・アラッドをあげ、日本で同じことを実践しているデザイナーとして吉岡徳仁をあげる。松岡氏はファッションデザイナーのアレキサンダー・マックイーン、ジョン・ガリアーノを例に出す。

ロン・アラッド Ron Arad:1951年テルアビブ生まれ。ロンドンを拠点に活動。

吉岡徳仁:1967年佐賀県生まれ。86年桑沢デザイン研究所を卒業。翌年、倉俣史朗に師事し、88年三宅デザイン事務所に入社。92年よりイッセイ・ミヤケのショップデザインを手がける一方で、フリーランスとして活動を展開。

アレクサンダー・マックイーン Alexander McQueen:1969年ロンドン生まれ。96年「ブリティッシュ・デザイナー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。97年ジバンシィのデザイナーとなる。

ジョン・ガリアーノ John Galliano:1960年スペイン生まれ、イギリス人。ロンドンで活躍後、活動の拠点をパリに移す。96年ジバンシィ、97年ディオールのデザイナーとなる。

 氏講演