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1999年 6期 桑沢デザイン塾<グラフィックデザイン> 3 書家 ![]() 書の宇宙 |
偉大なる文字書の世界のどんなところに石川氏は魅せられているのか。「かくことの持つ創造力だ」と氏。文字の形一つ一つには、長い歴史とう余曲折した末に形成された文化がある。筆で書くと言うことは「思考すること」また「現実の世界とは異なったもう一つの世界を作る」。「東アジア地域の壮大な営みを小さな紙の上に表す」ことになるのです。
文字は‘言葉’を作ります。新しくできた言葉によって、私たちはより複雑な思想を語ることができるようになり、より発展した社会が構成されていきます。日本では縄文晩期であった紀元前500年頃、中国では孔子という存在が出現していたのです。
甲骨文字に見るデザインの起源漢字の起源である甲骨文字は、表現の起源でもあります。その理由として「さまざまな意味での基準を確立したこと」を指摘する石川氏。まず、亀の甲羅の上下を認識することにより‘縦と横’が成立する。そうすることで‘縦書き’が可能になり、どこを基準として見ればよいか分かるようになる。 甲羅の中心から見て‘左右対称’に並んでいる文字。甲羅の中心軸を感じることで、文字の配置に‘均斉’のとれた美しさを見い出すことができます。 甲骨文字が確立したこれらの表現基準は、全世界共通のもの。これは「表現でありデザインである」と氏は言います。
つながる文字のデザイン中国の漢字を手本にして作られた日本の「ひらがな」と「カタカナ」。「ひらがな」にできて「カタカナ」ではできないこと。それは英語の筆記体のように文字を続けて書くことです。文字を続けて書くために、直線的なカタカナを超えた曲線的なひらがなが生まれました。 もともと、文字はワープロではなく手で書くもの。毛筆の持つ独特の柔らかさと流動的な動きの中で、文字同士が流れを作り、なめらかな思考が生まれます。平安文学はこの文字のつながりから生まれ、そしてそこにさまざまな日本的美学が生まれたのです。「文字をデザインする」ことは、千年以上も前から行なわれていたことで、デザインの伝統とも言えます。しかし文字を書くことなしに、文字をデザインすることはできないでしょう。
‘筆蝕’筆で書く以前の漢字は、抽象化した図を記したり線を水平垂直に引くなど、彫って表すものでした。書の世界にとって革新的なできごとと言える、筆で書くことの認知と筆蝕。紀元前3世紀の前漢の時代に作られた隷書で筆触が生まれ、3世紀の後漢・三国時代に筆記体である右肩上がりの行書・草書が生まれます。 文字は右手で書くという原理が成立し、水平や垂直によって神や政治権力のメディアであった文字・書が、人間主体の書に転換したのです。 筆蝕とは‘絵画などの筆使い・タッチ’のことですが、書で言うところの‘筆蝕*’は、文字の書きぶりの全体であり、そこには筆者の思想がひとつの画(かく)を書く力と速度と深度と角度にこめられる」と石川氏は言います。
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![]() 石川九楊氏 いしかわ きゅうよう 1945年、福井県生まれ。京都大学法学部卒業。書家。明治大学大学院、東京学芸大学、京都精華大学講師を務める。 「歎異抄」や「源氏物語」などの日本古典文学、田村隆一や谷川雁の詩などを題材に、現代美術とも、デザインとも、また楽譜とも思える不思議な書の作品を発表する。一方、'90年に『書の終焉 ── 近代書史論』でサントリー学芸賞を受賞。'96年、甲骨文字から中国現代書にいたる研究の集大成『中國書史』を発表。最近刊『二重言語国家・日本』(NHKブックス)、『書に通ず』(新潮選書)はいずれも文学や書、言葉、アジアに対する通念を一変させる書として話題を集めている。 他に著書『書と文字は面白い』『書字のススメ』『書とはどういう芸術か』『書を学ぶ』、作品集『歎異抄─その二十の形象喩』などがある。『書の宇宙』(二玄社・全24冊・浅葉克己デザイン)を編集・刊行中。
*本来の漢字は
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