| 桑沢デザイン塾第3期 「写真」第3回目は、写真家の十文字美信氏です。「講演みたいなものはほとんどやったことがないんです。自分の考えていることを言葉にすると、ちょっと違ってくるような気がして。自分の行ってきたことを振り返る機会もなく、だいぶ長く写真を撮ってきたので、一回振り返ってみてもいいのかなと思いました。実は今日、話すのを楽しみに来ました。」と始められました。
リアリティー・写真の真実
氏は一番最初の作品『首なしポートレート』ができるまでの話をされました。この作品は、もともと夢の中で氏を怯えさせる存在だったそうです。
「目が覚めても身体の中に残っている恐怖感を再び思い出すと、鳥肌が立ち、『恐い』という実感だけはものすごく残っていて、それは確かに存在したモノだと思うんです。これを『写真』に記録できないかと思ったんです。」そして生まれた『首なしポートレート』。氏は「顔は見えないけれど、『ここに居る・存在感がある』という、このリアリティーが僕にとっての本当のリアリティーなんです。写真のリアリティーや写真の真実とは、かなり曖昧なんです。」と話されました。その作品から氏は「写真とはフレームで切ることにより、人がその写真を見て、『フレームの外にあるものを想う写真』が一つのリアリティーなんじゃないか。」とこの作品を撮った24歳のときに思ったそうです。
ライブ感覚
十文字氏は、二三日前のコマーシャルのロケで、次々に起こったパニック的惨事を語られた後、「写真は、技術的なことは、10%〜15%位で、それ以外のことを、どう対処していけるかが問題なのです。」と言われました。
「撮影は、自分の目の前にあるものを記録して、それをもう一度再現する仕事です。その場の空気や雰囲気、気持ちなどをイキイキとフレッシュのまま、どのように真空パックできるかという作業なんです。だから、現場の条件が整っていて、何の苦労もなくスッと撮ったモノと、必死になって焦って慌てて汗流して何とか撮影まで漕ぎつけたモノの、どちらがいいとは一概に言えないんす。理想的な場所で、何の問題もなく撮影したモノの方が、魅きつけられることが少ない場合があります。どんな状況でも、それを活き物にする力、輝かせる力が、カメラマンに一番求められます。そのことに気付くかが、いい映像を撮れるかの大きな差じゃないかと思います。撮影はライブなんです。」厳しい状況を数多くこなしてきた氏の言葉です。
コマーシャル映像
氏の最新広告映像『キリンの淡麗生』のコマーシャルがどのように作られたかを、実際にテレビで放送される映像とそのメーキングフィルムを上映しながら説明されました。
炭酸飲料の場合「のどの乾きや冷たさを表現するための水滴や、炭酸の飛び散りなど、『シズル』*を出すためにはコマが流れては上手く表現したいモノが伝わらないんです。」
「コマーシャルは、一秒間に30コマ撮ります。それがノーマルなスピード。一秒間にカメラの中でフィルムは、10倍のスピードで回るんです。一秒間の動作が10秒かかるわけです。つまり、10倍のスピードで撮ったモノをノーマルで写し再生したら、その一秒間は、10秒間の情報量があるんです。
炭酸飲料の『シズル』を出すための映像は、ノーマルスピードで撮ったその一コマ一コマに、あの炭酸が飛び散っている様子がスチール写真と同じように止まってないと、コマーシャルで見るような、キレのいい映像にはならないんです。動いているモノの静止画を撮るには、ストロボを使うんです。」
「10倍のスピードの一コマ一コマに合わせて、進行させてストロボライトという特別なライトを使用します。しかし、ストロボというのは、一回付いたらチャージする時間が必要なので、マルチで連続して、しかも、一秒間に300回付くストロボをコマーシャル撮影には使います。」
映像効果をあげるための撮影以外の装置や技術についても話されました。『キリンの淡麗生』のコマーシャルのワンシーンで、手が映像に入って来て缶を掴む直前に、水滴が潰れないように、赤外線反応のエアーを使い、水滴を飛び散らしたり、この広告を作ったデザイナーが注射器で一個一個、缶に水滴を付けたことなど、15秒や30秒という短時間のコマーシャルに隠された数々の大変な作業を語られました。
撮影の秘訣
コマーシャル映像を撮るポイントは「飲んでるシーンをどうやって魅力的に撮るか。」それと、「現場の雰囲気をどうやって、気分よく作っていくかということが、撮影のもっとも大きなポイントなんですね。」と氏は話されました。
大事なのは『ライブ感』。あの短時間のコマーシャル映像は、技術の進歩やスタッフの努力や苦労、技術以外のことなど、たくさんのドラマの凝縮されたモノ。『何度見ても飽きないコマーシャル』の理由がわかった気がします。
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