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桑沢デザイン塾

2002年3期 ニュープロダクト 第5回
深澤 直人
行為と環境に寄り添うデザイン

日常における人の行動や心理を観察して、その無意識下の記憶や感覚に働きかけるデザインを実践する深澤直人氏。デザインを「人と環境とモノとの間の折り合い」ととらえることで、そこに新たな価値を見い出すことができると言います。
 
■ 自分を環境の一部と考えることで見えてくるものがある
「“環境”という言葉を、自分の身体以外の部分として定義しますか? それとも自分も包括した全体として定義しますか?」 。冒頭、深澤氏は受講者に対して質問を投げかけました。
「どちらが正解ということではありません。たとえば“環境にやさしい”“環境汚染”という言い方をするように、定義としては前者を用いることが多いのではないかと思います」。
しかし、自分を出発点にして環境を考えるのではなく、もっと根元的な意味を探ろうとするとどうなるでしょうか。
「これは環境問題の話をしているわけではなくて、デザインをする際に自分も環境の一部だと考えるようになると、いろいろなことが見えてくるのです」。

■ 行為と相即するデザイン
この観点に立って深澤氏は近年、「行為と相即(そうそく)*1するデザイン」というコンセプトを打ち出しています。「これは行為にデザインが溶けてしまうという意味。噛み砕いて言えば“はまってる”ということです」。
そこで重要になってくるのが“Active Memory”であると深澤氏は言います。「それは、日常的には意識していないにも関わらず、みんなが共有している身体的な記憶のことです。たとえば、小指の先をちょっと怪我しただけで、妙にコーヒーカップが持ちづらいということがある。普段は意識しないが身体は知っている小指の重要な機能を、このとき初めて意識するわけです」。
「デザインは“必然”であって、僕たちが作り出すものではないという気がするんです。僕がデザインをするときに一番大切に思っていることは、自発的に何かを作ろうという意志よりも、既にみんなが共有しているものを見つけ出して、それを具体化していくという感覚なんです。だからそれは、自分の個性とか主張ではないと思っています」。
 

■ 現実のなかに潜むアイデア
今まで気づいていなかった記憶や感覚に対して意識的になり、現実の中に既に存在しているアイデアをつかみ取ること。そのためには、自分自身を環境化する客観性が必要です。
「環境に内包された価値を見つけること自体を“行為”と言います。たとえばテーブルに肘をつくという行為は、それが肘をつきやすい位置にあるという価値を発見していることでもあります」。
「人間のモラルや心理を超えて、身体がそこに最も適合した価値を探そうとしていることがあります。環境が提示していることを、それとなく人間が受け入れる。これはあらゆるデザインにとって重要なファクターだと思います」。
 

■ 人間の眼は空を見ているときにフォーカスしていない
こうした観点をふまえ、レクチャー後半では、深澤氏がこれまでに手掛けた作品群を紹介します。
その一つが、2001年にMoMAで展示された「Personal Skies」です。
「“Individuality within Corporate Identity(会社の中での個人)”というテーマが与えられ、会社組織の枠の中で個性をどう表現するかということを考えました」。IT技術によって場所の概念そのものが変容しつつある現在、個人の仕事スペースを個性化する方法を提案した深澤氏。
「デスクとまったく同じサイズの空を、プロジェクターを使って頭上に浮かべました。席に座ってどこかに電話をすると、相手の空がリアルタイムに映ります。自分の個の感覚を表す心理空間であって、ここに他人はなかなか入り込むことができません」。
「このときに気づいたことは、人間の眼は、空のどこも見ていないということです。空という概念は、山の稜線や雲などを抜き取った状態を指しているわけです。生活の中で、自分の眼のフォーカスが合わないというのは稀なことです」。
 

■ モノに付着した些細な痕跡をいかに視覚化するか
「新品の靴というのは個性がないけれども、それを長く履いていると、脱いだ跡が、持ち主の立体的な身体の形をよく表します。モノに付着した些細な痕跡から、“その人である”という存在が感じ取れることがあります」。
「A Chair with a Soul Left Behind (魂の残る椅子)」では、座る人の背中が背もたれに映し出され、その人の動きに同調します。椅子に座ると少し遅れて背中が映り、立ち去ると少し遅れて消えていきます。
「少しタイミングがズレているんですよ。ほんのちょっと遅れるようになっている」。「画像技術が発達すると、これまでに撮ることができなかった画像を、今ここで見ることができるという利便があります。しかし僕は、当たり前の場所に当たり前の画像を映すことで、見えていない何かをいかに見せるかということを考えたかったんです」。
 
    深澤 直人氏
深澤 直人 氏
 
ふかさわ なおと
1956年生まれ。多摩美術大学卒業。セイコー・エプソン、サンフランシスコIDEOに参加。NEC、アップルコンピュータのビジュアル・ランゲージなどの開発に関わる。IDEOジャパン設立。Naoto Fukasawa Design設立。プロダクトデザインの開発、企業内デザイナーを灼熱したワークショップ。2001年NY近代美術館「Workspheres」展。壁掛CDプレイヤー無印良品。2002年IF賞受賞。2003年毎日デザイン賞。ブランド「±0」立ち上げ。

Naoto Fukasawa Design
http://www.naotofukasawa.com/

ideo.com
http://www.ideo.com

Japan Design Net 「桐山登士樹 注目デザイン&デザイナー」での紹介
http://www.japandesign.ne.jp/HTM/DCG/CURATOR/fukasawa/
 
 
*1 相即 そうそく、万物が互いに他の全事物を含みこんで、一体として存在していること、仏教用語
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
講演の様子

 
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