「エコロジーデザイン」講座1回目は、シリーズ監修の益田文和氏によるイントロダクション。地球環境を考える上で、まず私たちが立たねばならない「スタートライン」とは。
■ 資源は借り物 「『創造的である』とか『クリエイティブだ』と言って、私たちはつい、自分で何でも創り出せると錯覚してしまいがちです。でもそれは地球の資源を何かに加工している行為であって、本当の意味でモノを創ることではない。私たちは地球の資源を借りて造るだけ。これが出発点です」。
「現在60億ほどの地球人口が、この先どう生存していくのか。ここから始めなければならない」。‘地球環境の問題=人間の生存条件の問題’ということを認識すべきと言います。
■ サステナブルとは? 1992年のリオ地球サミット*1で「サステナブル・デベロップメント(sustainable development、持続可能な開発)」として登場して以来、環境問題のキーワードとして定着した「サステナブル(sustainable)」という言葉。日本語では「支持できる」「持続可能な」「維持できる」といった意味になります。
「地球人口の20%を占める先進諸国が、全エネルギーの80%を消費しているという非常に歪んだ現代の構造。とてもサステナブルとは言えない現代文明。これに代わる持続可能な新しい文明を作ること。それを考えるのがサステナブル」。
地球人口が100億人になると予測されている2040年には、先進諸国の人口比率は相対的に減り10%になります。仮に人口比率に従ってエネルギーを分配したとしても、「エネルギー消費量を現在の1/8に落とさなければならない、その覚悟は相当なものです」。
■ デザインの果たす役割 循環型経済社会に向けて、エネルギーをなるべく使わない「リユース」という概念をデザインに持ち込もうという活動も盛んです。
「国際デザイン・リソース・アワードの受賞作に、プリント基板を使った手帳型ファイルや聴かなくなったレコード盤で作ったボウルなどがあります」。
「エコロジー=天然素材を使う、というイメージがありますが、たとえばリサイクル・プラスチックというのもある。プラスチックは避けて通れない素材だし、むしろ積極的に取り組んでいくべきもの。なのに日常的に使っている割には知識がない。こうしたことを知ることも、モノを作るデザイナーの責務なのでは」。
すべての人が生存可能な最も効率のよい未来に、どうランディング(着陸)するか?
「それを考えるのがデザイン。未来はおそらく‘ある調和を保った狭い可能性’の中でまとまっていくでしょう。そこに到達するために、今どうするか」。
「そのためには、現在から未来を占うのではなく‘未来に立って現在を見る’視点の変換が必要」。‘ある調和を保った狭い可能性’を想像して、そこから現在を見ると、選択できるモノは限られてきます。
「これを、デザインの制約が増えることとは考えない。今までと違う発想でモノをつくることができる、見ることができる、という新たな可能性を示している、と考えるべきでしょう」。
■ エコ・バリューをデザインする 「大学で学生たちと研究しているテーマに『環境負荷と本質的価値の高低の関係』というのがあります。研究を進めていくと、現在の市場経済は、環境負荷が高く本質的価値が低いモノばかりで構成されているのではないか、と思えてくる。その逆のものは少ない」。
「こうした状況の中で、差別化を図ることで何とかしてモノを売ってきた。デザインはそこに多大なる貢献をしてきたわけです」。
しかし、本当に必要なものは違うところにあるのではないか、と益田氏は言います。
「それこそがエコ・バリュー。その正体は私たちもまだつかめていないのだが、このエコ・バリューなるものをどうやってデザインいていくか…。これまでいかに売るかで汲々としてきたデザインは、そのエネルギーを別のところへ向けることが求められているのではないだろうか」。
質疑応答より
営利を追求するのが企業のはず。事例で、車両を軽量化したJRの取り組みを紹介されましたが、企業が革新に積極的に取り組むのはなぜなのでしょう?
破綻が目の前にあることを、経営者は知っているためです。今までと同じようにモノをつくって売っても市場は動かない。そして日本には資源がない。「資源やエネルギーをどう確保するのか。次の手を早く打たないといけない」と気づいたということでしょう。
しかし、それがそのまま新しい商材になり利益をもたらすかというと、そんなにうまくはいきません。でもやらなきゃいけないんです。そこに新しい可能性があると思います。
経営者を含め、私たちに必要なのは「何のために何をどうやって作るか」です。新たな社会システムを作り出すんだという目で、ニーズを掘り越こさなければならない。大事なのは、どういう社会を作るかという私たちのビジョンであり、それこそがサステナブルデザインです。
環境問題から見て、人類はあとどれくらいもつと思いますか?そしてそう考える理由も聞かせてください。
非常に難しい問題というか…答えはないと思うんですね。でもいくつかヒントはあります。「もう遅すぎる」と言った人がいます。京都議定書の目標値までCO2が削減されたとしても、あと千年は温暖化が続くだけの材料を我々は作ってしまった、という計算もあります。
その一方で、2〜300年前に我々が持っていた最もエコロジカルな社会である江戸時代にヒントを得て、消費の仕組みや生き方・暮らし方を変えてしまおうという楽観論もあります。
かつてヒッピー文化がありました。これからも、今の文明と全然違う価値観を持った人たちが生まれる可能性はあると思います。私は今の10代、20代前半の人たちに期待していますし、自分でもどうやって20世紀の後始末をしようか考えているところです。
2002年2月23日、桑沢デザイン研究所にて
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 益田 文和 氏
ますだ ふみかず
1949年東京都出身、東京造形大学造形学部デザイン学科卒業
建設会社、デザイン会社等を経て78年以来フリーランスのインダストリアルデザイナー
91年(株)オープンハウス設立、98年エコデザイン研究所設立、00年東京造形大学教授、「O2 Global Network」日本リエゾン、グッドデザイン賞審査委員
サステナブルデザイン及びエコデザインに関する研究及び開発に取り組んでいる
open house
http://www.openhouse.co.jp/
*1 1992年、環境問題と人類の持続的発展(サステナブル・ディヴェロップメント)を討議するため170カ国以上がブラジル・リオデジャネイロに集まった。京都議定書の前身である気候変動枠組み条約が締結された国際会議。
10年後の今年、南アフリカ・ヨハネズブルグで、再び地球サミットが開催される。
United Nations: Johannesburg Summit 2002
http://www.johannesburgsummit.org/
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