ジャパンデザインネットのトップページ
レポート
ミラノ - Life is design -
 ジャパンデザインネット
 レポート
 ミラノ - Life is design -
 


第4回
サローネの風景 ─ 「和空」エキシビションより ─

 update 2003.04.23
レポート : 上田敦子 / インテリアコーディネーター 




4月9日より14日まで開かれたサローネの中で日本から出展していたものに、この「和空」という展示会があった。会場はフオーリサローネ(外のサローネという意味)で、ミラノ市内の東側、リナーテ空港の近くに面しており、市内の中心から少し離れた場所にもかかわらず、多くの人が訪れていた。

今回この「和空」をプロデュースした中塚氏は18年前から毎年サローネを訪れており、ずっと自分が出展者になることが夢であったという。毎年いくつか日本からの出展があるが、いつもの新作デザインの発表といったものだけでなく、今回のこの「和空」はロンバルディア州とコラボラレーションして出展しており、日本の京都とミラノ、伝統工芸とモダンデザインの融合をテーマとして開催された。

会場となった場所は、トラムと呼ばれる路面電車の走る道路沿いにあり、倉庫などが立ち並ぶ会場前に「76」と書かれたパネルが目立っていた。「76」という数字は会場の番地であり、場所が分かりづらいという、というフオーリサローネのネックを解決される為に役立っていた。(ガイドブックに掲載するはずが載っていないというハプニングもあったそうだ。)

「STUDIO 2000」というタイトルの会場を入ると、パーテーションで囲まれたブースが出現する。キャンドルライトを使った照明に案内されるように中に入っていくと、まず高さ540センチという和紙の照明に迎えられる。その大きさと温かい和紙を通した光に圧倒されるが、大きさの割に圧迫感がないのは素材である和紙所以なのであろう。その周りを取り囲むようにいくつかの作品が展示され、そのベースになる床にはもみじを思わせる赤や朱色の断片の絨毯が演出されている。着物の生地を裁断したものかと思ったが、実際はこれも原料は和紙で、染色されたものを紙縒りにして織り込んだのだそうだ。とても日本的だと感じるのが、演出の細部がとても細かいのである。京都の土蔵を思わせる土砂色の壁面と和紙照明の色合いのコントラストが、ブースに入った瞬間に京都の町屋に入ったかのような錯覚を覚えさせる。その柔らかい色彩が心を和ませ、時間をゆっくり流れさせているかのような空間を作り出している。

京都といえばご存知の通り、数多くの寺院や歴史の所以のある建物が多く顕在する街。そしてその一方で、新しい建物もそれに共存しながら街を形成している。古い町屋の建物の外観を残しながら内部を新しくした建物をよく目にすることが出来る。伝統工芸と呼ばれる昔からの技術と新しいデザイン、互いによい所を残しながら又新たな形を作っていく。今回のこの「和空」のテーマとなっているものもまさにこれである。
一方、ミラノは世界の中でもモダンデザインの発祥地のひとつ。しかし、現在もなおキリスト教の影響もあり、非常に伝統や古いものを大切に残しているという面もある。日本とイタリア、アジアとヨーロッパ。互いの文化、言葉や生活習慣は大いに異なるが、その中に見出される要素は限りなく近いものもある。それは伝統と現在の新しいものの融合なのではないだろうか。

出展されていた作品には、日本の伝統的素材を使用しモダンデザインとして新しい形を作り出したもの、環境問題をテーマとしてエコロジー素材で作品を作っているもの、日本古来の伝統工芸である職人と協力してデザインされたものなど、単に新しいだけのデザイン展ではない中身のあるものばかりであった。

その中のひとつにエコロジーをテーマとしたものがあった。炭と再生ポリカーボネート、そしてステンレスを組み合わせ、パーテーションを作っていた。材料となる炭は空気を浄化し、また今注目されているマイナスイオンも出し、わずかだが赤外線も放出するという。その素材を用いて、日本の格子と襖をモチーフとした縦横組み合わせ可能なユニットを形成している。材料となっている炭だが、これも一度粉末状にし押出し成型で小さなキューブ状の断片になったものを、一つ一つ手作業で升目の中に入れていくのだそうだ。映像では見えないがかなりの小ささである。会場を訪れていたイタリア人も興味深げに作品のことと作品コンセプトを尋ねていた。

同じ草木義博氏の作品で、「睡蓮」というタイトルの作品がパーテーションの前に置かれていた。再生アクリルの水槽に光ファイバーを睡蓮の茎に見立て、蓮の花の部分になるところには成分分解性プラスティックを使った花が咲く。材料は全て土に返るものを使用しているという。水槽の中には金魚が泳いでおり、水に浮かぶ不思議な光の睡蓮に魅了される。照明のひとつとしての提案なのであるが、水槽の水を通して映し出される光は、新しい光の演出の方法でもあろう。

また今回発表された作品の中に、岩倉榮利氏の「桐箪笥」があった。日本の中にいても今ではほとんど家庭で見ることが少なくなった家具である。しかも総桐箪笥ともなればかなりの価格が付く。昔は嫁入り道具として用いられてきたものが、洋服の浸透と共にだんだん着物の生活から離れ、日本人の生活の中から姿を消して行きつつあるのである。改めて桐箪笥を見るとその技術の素晴らしさに驚く。引出しを開け閉めする度に、他の引出しが手前に押出される。箪笥の機密性の高さを証明しているものである。日本の風土にあった収納の家具であり、湿気を大敵とする着物を大切に守るという機能性にも大変優れているものである。この技術はヨーロッパにも必ず誇れるものである。シンプルというにはおこがましい位にデザインは無駄がなく、簡素になればなるほど、材料である桐材の木目の美しさが強調される。そこに日本の美を見出すことができるのである。

毎年、見本市会場以外で多くの展示ブースが出展されるが、新しい技術、素材、奇抜なデザインのみのデザイン発表会だけではやはり中身がない。プレゼンテーションのおもしろさは確かに来客の関心を引くが、コンセプトや打ち出していく内容性のあるものでなければ、単なるお祭り展示会で終ってしまう。今回この「和空」は京都とミラノ、伝統とモダンデザイン、そして現在われわれの環境にかかわる問題をテーマとして出展しており、久しぶりに中身の濃いデザイン展、そしてその奥にある日本の粋を感じさせてもらった。イタリアやヨーロッパの人々に、本当の日本の美とは、昨今のまがい物の日本デザインをもじったようなものではないことを伝えるいい機会になったことであろう。新しいものも常に伝統を元とした確かな技術によって支えられている。デザインだけが一人歩きしていては、そのものは続かない。一年以上かかったプロデュースを成し遂げた中塚氏に、又来年もミラノのサローネで日本の本物を見せていただけることを楽しみにしていたいと思う。




ブースの中央に位置する和紙の照明を取り囲むように作品が展示されている。和紙照明のデザインは堀木エリ子氏。日本古来の文様である「立湧」をモチーフにデザインされた。




三層の塗装が施されており(1st:黄、2nd:ピンク、3rd:白)、時間の経過と共に現れてくるのだそう。デザインは大縄順一氏。




スレンレス+竹パネルを組み合わせたパーテーションとステンレス+タタミを組み合わせたベンチ。デザインは杉木源三氏。




エコロジーをテーマとした屏風。炭、再生ポリカーポネート、ステンレスと全て土に返る素材を使用し、日本の格子、襖をモチーフにしている。光ファイバーを使用した照明は水に浮かぶ睡蓮を演出している。デザインは草木義博氏。




日本の伝統工芸を代表する桐箪笥。デザインは岩倉榮利氏。日本の素材である「桐材」をテーマに、伝統工芸技術を持つ職人との共同作業を行った。




波を連想させるシルクを用いたパーテーション。独自の染色法とローケツ染を使用している。デザインは内田明司氏。









二本足構造のチェアーは鉄、真竹を素材として使用。2種類あるチェア−は中に灯りを加えて照明として使用することも出来る。デザインは山下順三氏。



天然樹脂液の漆で加工し、金粉で絵付けを施した蒔絵作品。波とめだかがモチーフ。デザインは下出祐太郎氏。



細かなドットを漉き込んだ和紙を合わせた屏風。デザインは野井成正氏。「雪」と名づけられた作品は、後ろからの柔らかな光によってドットの部分が映し出される。









今回のエキシビションのタイトルロゴ。



4月9日の「和空」エキシビションのオープニングパーティにて。参加したメンバーの方々。右より4人目がプロデューサーの中塚重樹氏。



オープニングパーティーにて。左端はこの制作に当たったイタリアサイドのGabriele(ガブリエレ)氏。日本の文化にも精通する親日家でもある。






JDNとは広告掲載について求人広告掲載お問合せ個人情報保護基本方針サイト利用規約サイトマップ
デザインのお仕事コンテスト情報 登竜門展覧会情報

Copyright(c)1997 JDN
このwebサイトの全ての内容について、一切の転載・改変を禁じます。