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それは3年近く前だったろうか。BBCの画面に、見たことも無い動きをする人物が映った。彼は都会の屋根から屋根へ、ビルの狭い窓枠から街灯の柱へ、スパイダーマンさながらに移動して行く。その流れるような動きは素早く、下界の喧騒をよそに優雅に踊るように空に舞っている。はじめはコンピュータで編集しているに違いないと思った。「見たいBBCの番組に間に合うように、どんな手段を使ってでも早く家に帰る!」というメッセージの局コマーシャルだったし、その動きは美しく、あまりに人間離れしていたからだ。だが何度も釘付けになって見るうちに、これは本当に生身の人間が都会の空をジャンプしているのだという、衝撃に近い感動を得た。これが私のFree Running(フリーラニング)、あるいはLe Parkour(パーコー)との出会いだったが、実はその後長い間、その名前以上のことを知るすべも無かった。ほとんどの英国人にとってもそれは同じで、その1年半ほど後の2003年9月に、チャンネル4が放送した番組、“Jump London”で、ようやくこのストリート系ムーブメントとも呼べるフリーラニングの存在が世に知られることとなった。そこでは4人のフリーランナーがロンドンのランドマークを飛び回っていた。
はじめのBBCの局コマーシャルで都会を駆っていたのも、番組“Jump London”の4人も、パーコーの発祥の地、フランスのフリーランナーだった。テレビに映る彼らの姿を、私と同じように衝撃を持って見つめていた人々が多くいたに違いない。“Jump London”の放送をきっかけに、イギリスのフリーラニングは強い求心力をもってじわじわと広がってきている。2年前にグーグルで検索してもヒットはほとんど皆無だったが、今や多くのウェブサイトが存在し、この新しいムーブメントはメディアやインターネットを効果的に利用した現代的な広がりを見せ、‘Next Big Thing’ ─ 次はこれだ!と目されるまでになっている。
さて、私がこの3年間しつこく彼らの事が気になっている理由は、彼らの都市を見る目、建築物を捉える目が、普通に歩いている人々と違っているに違いないと思ったからだ。彼らの動きもコリオグラフィー(ダンスの振り付け)のように美しく、いつか話を訊いてみたいと思っていた。そしてこの夏、とうとう彼らがジャンプするのにくっついて回って来た。といっても屋根から屋根へ一緒に飛んでまわったわけではなく、壁や階段等でトレーニングしながら移動する彼らに、(必死で)付いて回って密着取材を試みたのだ。取材は7月の終わりから8月にかけてだったので、随分遅いレポートになってしまったが、たくさんある理屈はあとにして、ともかく彼らのジャンプをご覧いただきたい。
■ ロンドンのスパイダーマンたち
私が付いて回ったのは、現在イギリスで最も活発に活動している二つのグループだ。
2〜3ページの写真は、ロンドンの草分け的グループUrban Free Flow( * 1 )の面々。テムズの南側、サウスバンクで毎週木曜日の夕方に練習している。最年長のEZ(イージー)を筆頭に、技術も高い。前述したテレビ番組“Jump London”を見て触発されたメンバーがほとんどだそうだが、なんと現在、彼らを起用した同番組の続編を撮影中である。感慨深いものがあることだろう。私が取材した時期はその撮影が始まったばかりで、オブザーバー、ガーディアンなどイギリスの有力紙から立て続けに取材を受けており、取材用にパフォーマンスするかどうかは、パブリシティーの大きさで決めているようだった。私の取材はギャラ無しの取材滑り込みセーフといったところ。彼らはパーコーをプロフェッショナルスポーツに育てようと試みており、将来は国際的組織を立ち上げてプロのトレーニングをすることを夢見る。現在までにもミュージックビデオやCMなどに出演している。
4〜5ページの写真はUK Parkour Association( * 2 )。彼らもロンドン中心のグループだが、バーミンガムやケンブリッジなど地方都市のグループとも連携している。私が8月に取材したのは、イギリス中のフリーランナー80人余りを集めた彼ら主催のイベントの場だった。イベントの発起人Jake(ジェイク)をはじめ、若い彼らは14、5歳の少年から高校生ぐらいが中心で、20代の人もちらほら。イギリス中に散らばるパーコーのグループをコミュニティーとして盛り上げて行きたいと、やる気まんまんだ。彼らもロンドンではサウスバンクの辺りでジャンプしている。メンバーはやはり“Jump London”を見て、「こりゃ何だ?」という感じで始めた人が多いようだが、初めて3か月、今日初めて、という初々しい面々もいた。ほとんど初対面の80名あまりの青少年が、パーコーを媒体として交流しているのも、後に話すような、パーコーの「哲学」の力かもしれない。
*1 http://www.urbanfreeflow.com
*2 http://www.parkour.org.uk
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