JDNトップへ
海外リポート
和蘭生活事始
 ジャパンデザインネット
 海外リポート
 和蘭生活事始
 


第7回
砂浜動物 テオ・ヤンセン / 風で歩く“生命体”を創る

 update 2005.04.13

リポート : 田村 望 / デザインライター 




ハーグ郊外の新興住宅街、イップンブルッグ。テオ・ヤンセン(Theo Jansen)さんと砂浜動物達は、その住宅街を臨む丘にいます。発明家であり、芸術家でもあるテオさんは現在、風を原動力とする新しいカテゴリーの“生命体”を創りだす作業に従事しています。彼が「砂浜動物」(オランダ語でstrandbeest)と呼ぶ、乳白色のプラスチックチューブの集合体で構成される生命体は、その奇妙な体、静かな佇まいの中に、今にも動き出しそうな気配を秘めていて、思わず立ち止まって眺めてしまう、そんな力を持っています。 【 写真 1〜2 】

この砂浜動物は、海岸に吹く風を動力にして自ら砂浜を歩き、走り回ることが出来ます。テオさんはかれこれ17年ほど動物達を進化させていく事に集中していて、その間にこの“生物”達も段々と世代を乗り越え、進化してきました。現在丘の上にいる最新世代はアニマルス・ペルセピエーレ(浜辺の知覚動物)と呼ばれるもの。風を感知し、羽を羽ばたかせ、空気を体内に溜め込み、それを原動力に、足をモゾモゾと上げて横歩きに歩き出します。 【 写真 3〜4 】

羽ばたくアニマルス・ペルセピエーレ
【 3 】 羽ばたくアニマルス・ペルセピエーレ©Lourens van der Klis
アニマルス・ペルセピエーレの後姿。
【 4 】 現在丘にいるアニマルス・ペルセピエーレの後姿。この沢山の足が動いて、意外な事に突然横に歩き出す。


動物たちは交換可能な、乳白色のプラスチック管でつくられています。その管は重要な“遺伝子のコード”の役目を担っています。この“遺伝子”は、砂浜動物の行動や能力を変化させ、次世代へ受け継がせるかどうかの決定の重要な鍵となります。すなわち、不良な遺伝子を持った世代は、より有利な遺伝子を持った世代に取って代わられる、より良い遺伝子は次の世代にコピーされる、という事が繰り返されます。何故プラスチックの管が用いられるかというと、軽くて、安いこともその要因の一つですが、加工のし易さ、柔軟性、しなやかさが“生命体”にとって有利だったからです。

動物たちは、“遺伝子のコード”であるプラスチック管のほか、“神経系”と呼ばれる透明チューブ、紐、ゴム、ペットボトルといった軽量で、交換可能で、柔軟な素材から成り立っています。最初はコンピューターを使って、歩くのに最も有利な方法のシミュレーションを行いましたが、その後は、もっぱらアナログ的に経験と試行錯誤を繰り返して、改良を重ねてきました。一時期、イギリスの動物学者で「利己的な遺伝子」の著者としても知られるリチャード・ドーキンス(Richard Dawkins)氏の説 * 1 にはまった時期もある、とテオさんが言うように、動物達の遺伝子の特質を知る為に、砂浜でレースを行った事もあるそうです。競争に勝ったものや、有利と思われる“遺伝子”を集めて、次の世代に移していくことが今日も繰り返されています。現在の世代であるアニマルス・ペルセピエーレは、風のエネルギーを貯めて使い、自分で土地の状況や、障害物を“触覚”で感知し、方向を変化させることが出来るまでに進化しました。 【 写真 5〜10 】

次ページに続く



テオさんと砂浜動物達の基地。
【 1 】 イップンブルグの丘の上にあるテオさんと砂浜動物達の基地。

テオ・ヤンセン氏と、写真家のル—ク・ファン・デル・キース氏
【 2 】 テオ・ヤンセン(Theo Jansen)氏(手前)と、パートナーであり、写真家のル—ク・ファン・デル・キース(Lourens van der Klis)氏

* 1 ダーウィンの進化論、自然淘汰の説の延長上にある説だが、ダーウィンが生物の進化、突然変異、自然淘汰、行動を生物が子孫を残していく為として説明とするところを、生物個体の為ではなく、“遺伝子”自身が生き残っていく為のプログラムだとして、生物の淘汰の仕組みや、行動を説明しようとする説。つまり個体は“遺伝子”を存続させるための「遺伝子の為の乗り物」に過ぎないとする説。詳しくはリチャード・ドーキンス著「利己的な遺伝子」をお読みください。

模型
【 5 】 砂浜動物の構造があらわれているシンプルな模型。乳白色のプラスチックチューブ一本一本の長さの差がDNAとなる。



【 6 】 透明ビニールチューブの神経系と、ゴムと乳白色のプラスチックチューブによる筋肉。空気圧によって、互いに反応しながら力強い動きを作り出す。
【 7 】 背骨に当たる部分
【 8 】 これが動物の胃袋。ここに空気を溜め込んでエネルギーとする。
【 9 】 アニマルス・ペルセピエーレの調子を見るテオさん
【 10 】 アイディアや気が付いた点をメモしたスケッチブック。



  1  
  2  
  3  
  4  
 N E X T


JDNとは広告掲載について求人広告掲載お問合せ個人情報保護基本方針サイト利用規約サイトマップ
デザインのお仕事コンテスト情報 登竜門展覧会情報

Copyright(c)1997 JDN
このwebサイトの全ての内容について、一切の転載・改変を禁じます。