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■ 「どんぐりの家」に見る「生活」への思い
「公開設計」と並行して進められているプロジェクトに「どんぐりの家」というものがある。これは、主としてローコストによる住宅設計の実現を旨としたプレタポルテ住宅である。最初の「どんぐりの家」の施主は「川辺の家」の掲示板で知り合ったという事実も特筆すべきだが、このプロジェクトにおいては、とりわけ建築形態に反映された「生活」への眼差しとコンセプトについて述べておきたい。
プランの詳細はウェブサイト(http://www.cafeworks.com/)を見て頂きたいが、暖色を基調としたシンプルな外観にぽこぽことしたリズムがあってかわいい。構造を支える基本的なキューブに、階段の踊り場や書斎等、生活空間のキューブがぽこぽこと突出しているのである。
外観にも表象されている作り手の「生活」への思いは、筆者の手元にある「どんぐりの家」のパンフレットにも表現されており、全体として生活のシーンに沿って編集されている。「おはよう。どんぐりの家」「こんにちは。どんぐりの家」「おかえり。どんぐりの家」「おやすみ。どんぐりの家」といった生活サイクルに併せたコピーを冒頭に、それぞれのシーンの印象的な写真とテキストで構成されている。坂口氏は、自らの設計の姿勢について「ハコを売るのではなく、生活を売るつもりで進めている」という。
また、プレタポルテ住宅はローコストでの実現を前提としているため、建具等には既製品が用いられる場合が多い。しかしその点で「どんぐりの家」はこだわりを見せている。生活者が手を触れる手摺りや建具など、生活者の視点から「見える部分」において、「どんぐり仕様」のオリジナル製品を用いている。身近に感じられるモノに、細心の注意を払っているのである。 【 写真 10〜15 】
■ 「生活デザイン」とは「生活者にとってのリアリティ」を大切にすること
以上、2つのプロジェクトを概観してみると、「生活デザイン」の特徴について付け加えるべきことが見えてくる。それは「生活者にとっての利便性」を考慮するだけでなく、「生活者にとってのリアリティ」を大切にすることである。住宅設計および生活空間が、作り手ではなく生活者にとってどのように認識・把握されているかを考慮し、それらを身近に感じ、愛着を持てるような仕組みを提供することである。「生活デザイン」においてこのポイントがとりわけ重要であることを、ワークスの試みは示唆してくれる。
例えば、生活者側は自分たちの「家」のどこからどこまでが設計事務所の担当であって、どこからどこまでが工務店の担当であって… ということなどは、関係ない。むしろ、様々な主体により形作られた生活空間が、自分たちの愛着や希望が反映された空間として、一貫して感じられることが望ましい。設計プロセスの中でその実現をサポートしたのが、「掲示板」という仕組みであった。
そしてプレタポルテ住宅である「どんぐりの家」では、経済的な都合や制度的制約の中で、空間に対する愛着をきちんと担保していた。建具等のディテールへのこだわりは、生活者が空間に愛着を持つためのインターフェースの見極めである。経済的な都合や制度的制約とやわらく折り合いをつけながら、あくまで「生活者にとってリアルに感じることがら」を優先しながら空間を構築していく術と言える。
さらに話を進めよう。先に「敷居の高さ(リアルに感じられない状況)」を解決するために彼女らが公開設計を始めたことを記したが、その本質について2点ほど述べておきたい。
まず1点目は、設計事務所の取り組みをそのまま分かりやすく公開しただけでは、「敷居を低く」するには不十分だということである。作り手側から発せられる「住宅設計という意味」を噛み砕いて、ウェブサイトやパンフレット等を用いて分かりやすく生活者に伝えることだけでは、「住宅設計という意味情報」は伝わっても、「生活者にとってのリアリティ」は担保できない。
ワークスの掲示板を見てくれると分かると思うが、住宅設計とは関係のない雑談がよくなされている。そして、ウェブサイトには、住宅設計とは関係ないコンテンツも用意されている。パンフレットでは、プレタポルテ住宅の分かりやすい説明というより、生活サイクルからのライフスタイルの提案という表現がなされている。これらの仕組みが、作り手と生活者という制度的関係を乗り越えて、「同じ『生活』という土俵で感情や知識を共有できる状況」を創り出していると言えるだろう。同じ生活者の立場として、生活に関わる情報を共有することによって、住宅設計に対する「敷居の高さ」が取り払われ、生活空間の愛着へと繋がると言える。
そして2点目は、「掲示板上のコミュニケーション」と「設計により生じた空間」を、「ウェブデザイン」や「建築」といった専門分野の前衛的な表現として見立てていない点も指摘すべきだろう。
例えば、(少々ベタだが…)「建築とウェブとの融合」などというコンセプトを掲げ、掲示板のログやそのメタファーを建築の形態表現へと反映させたりすると、情報交換・公開のリアリティは失われ、より一層「建築」の「敷居の高さ」が助長されるに違いない。
また、「ウェブデザイン」の表現として秀逸化させようと、多機能な掲示板や目新しいコミュニケーションツールを使用した場合、「ウェブデザイン」の「敷居の高さ」を感じてしまう生活者もいるだろう。使用している「掲示板」は情報交換・公開に必要な最低限の機能を有したシンプルなものである。情報化社会に慣れてきた生活者にとって、情報交換・公開のツールとしてリアリティを感じ得る、ベーシックな「掲示板」なのである。
「チーズ」から始まった彼女らのシンプルな発想と行動は、「建築」や「ウェブデザイン」という専門分野という視点に立てば、決して派手な試みには見えないだろう。しかし、「生活者にとってのリアリティ」を大切にした「生活デザイン」の試みとしては、実に前衛的であり、生活者にとって、とても幸福な側面を有した試みだと感じている。
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【 10 】
どんぐりの家。東から見る外観。踊り場がボコっと飛び出しています。


【 11 】
どんぐりの家。ベンチ付きアプローチ。ここで御近所の子供と一緒に遊びます。


【 12 】
どんぐりの家。真っ白な漆喰と無垢の木。やさしくてシンプルなインテリア。


【 13 】
どんぐりの家。2Fのどんぐリビング。本を読んだり、家事をしたり…。


【 14 】
どんぐりの家。子供室。子供の秘密基地のロフトにも行けます。


【 15 】
どんぐりの家。ロフト、踊り場のつながりが面白い。家族の気配がどこにいても分かります。

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