デザイン(日本語的な意味での)は、ある独特な思考プロセス(知恵の巡らし方)をたどる。授業の中で取り上げた「デザインの事例」を基に、その特徴とその役割効用を整理しておこう。
●デザインの出発
1.無理難題から始まる
新しい物事の登場は、現状に対するなんらかの不満が出発点となる。ただしデザインは、「従来の方法では解決できそうもない場面」に至り、初めて期待される(簡単に解決できるのであればデザインは意識されないし、デザイナーが呼ばれることもない)。デザイナーの側からすれば「困ったときにデザイン頼み」であり、常に割が合わないように思うが、次元の異なる課題がからみあうような複雑な問題(無理難題)に解決をもたらすことが、デザインの役割ということになろう(デザインはそうしたときに自然と発揮される知恵と言う見方もできる)。
●デザイン思考
このような難解な課題に、デザインはどう立ち向かうのだろうか。
2.身体的に受けとめる思考
まず話を聞く、自分の目で確かめる。パッシーブ(受動的な)なスタンスから「私ならどうするか」を、まず自分の痛みに置き換えて捉える。
3.受け手発想の思考
自分の痛みに置き換えることは、自然とデザインの対象を人間の側から受けとめていく(機械であれば使用者の立場)ことになる。そこで、使用者、使用環境、つまりデザインの対象物の外側からみて、対象物(内側)がいかにあるべきかを考えていくアプローチがまず取られる。
機械の場合を例に取れば、外側には狭い意味での「使用環境」だけでなく、使用者のライフスタイルや生活信条、あるいは時代感覚といった広い意味での環境もある。デザインではそうした「環境」を重層的に(入れ子状的に)捉えながら、外側(全体)と内側(部分)の関係を調整していく思考プロセスが取られる。外側の論理に立脚すれば中側はどうなるか、またその逆をダイアログ的(ただし一人芝居的)に捉えていく。この対話的プロセスの中で「足りない要素」を発見し、仮説を直感的に成立させていく。
4.コスモロジーの思考
ただしデザインが難解な点は、外側(環境)をシステム、サブシステムといったように階層的に捉え内側を追い込む方法(工学的な方法)を採らないと言う点にある。外側が決まれば内側は決まるが、内側を少し変えてしまえば外側もまた変わる。外と内との関係は双方向的であり、デザインはこの双方向性を前提としながら解決策を提案していく。やや文学的にいえば、外と内の関係を「融通」させながら、内(対象)に世界(外)を閉じこめていく。
5.ウイットに富んだ対話
なぜこのような思考プロセスを取るか。それはデザインが対象を解決しているのではなく、対象の背景にある事象の解決を意図しているからである。機器の場合で言えば、デザインの責任はあくまで「使用者の経験の質」(たとえば作法)といったもの。
ただしデザインは「このようにすべきである、これが正しい」と大上段に振りかぶった表現はしない。硬直しがちな論理を少し「ずらし」、ウイットに富んだ表現を持って語りかける。「おや、違うんじゃないの」と。「なぜだよ」問い直した瞬間に、実は読み手もすっかり気づいている。デザインは気づいてもらえばそれでいい。
●デザインの社会的役割
20世紀は、デザインに商品を大量に売る役割を与えた。しかしデザインには、社会全体を発展させていく力がある。その力を引き出すことが求められている。
6.橋渡しの機能、フレームを変更する役割
デザインは対象の外にあると考えられていたものを取り込んでいく機能、異なる分野、領域間の橋渡しをすることで、問題解決の枠組みを拡大する役割を担ってきた。やや大げさに言えば、技術と人間の橋渡し、工学と芸術の橋渡し、産業と文化の橋渡しなど、「新しい枠組み」を築いていく役割が期待される。
7.仮説をもって社会を進める機能
デザインが提示するのは、あくまで「こうしたらどうか」と呼びかけていく仮説(モデル)である。20世紀の社会は大いなる仮説(例えば社会主義)を規範としてきた社会とも言えるが、21世紀に期待されるのは、誰もが検証可能な仮説、等身大の仮説であろう。こうした「呼びかけていく仮説」を提示する知恵として、デザインに期待が寄せられている。
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