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 11. 「無理難題」を解く
 


デザインの事例・37
● 21世紀のポイエシス

三宅一生さんの「A-POC」が、2000年度「グッドデザイン大賞」(デザインの最高賞)を受賞した。当時デザイン界は賛否両論。ただクリエイティブなデザイナーは、このデザインが持つ可能性を見抜いてくれたように思う。「A-POC」には「21世紀のポイエシス」を考えていく手がかりが、数多く隠されているように感じる。

○三宅一生さんが語る「A-POC」

「A-POCとは、A Piece of Cloth の略、つまり一枚の布なんですが、実はたった一本の長ーい糸からで来ているんです。…発端は、藤原大という若者がデザイン事務所に入ってきたことでした。彼はジャージを担当することになって、まず各地の工場をまわって、テクニックを研究しました。帰ってきて報告するには、面白い機械がありました、と。試しにこの機械を走らせてみて、生まれたのが『ジャスト・ビフォー』(A-POCの前身)でした。機械からでてきたニットのロールをカットするだけで、縫製もせずに着ることができるという、まったく新しいジャージ製品の誕生でしたが、社内でも理解する人はいませんでした。ぼくと藤原の2人でその可能性に着目し、糸や方法論を含め、ソフトの部分を工夫しながら発展させ、A-POCが誕生したのです」
「現段階では名称はA-POCですが、実はすでに糸や繊維をもっと自在に操れる『A-POS : A Piece of String』にまで発展しています。将来はオリジナルの機械も開発したいと話し合っています。A-POCのマシン版、『A-POM』ですね。そこからさらに社会的な教育、エデュケーションまでを視野に入れた『A-POE』へと発展させていきたい。機械に向かって好みの色やデザインを入力すると、ポンと衣服がでてくる、そんなことが現実になるかもしれない」
「現代のデザイナーというのは、企業のビジネス戦略とかの協力者になっているだけなんじゃないか、と感じることがよくあります。そんな中で、デザイナーが表現者としてやれることがあるとすれば、それはポエジーを盛り込むことではないか、とも思いますね。われわれの仕事を『アーティステック』だと評する人もいますが、もしかしたら、それはポエジーのようなものを感じているのではないか。ポエジーとか、あるいは『エーッ!そんなのあり?』っていう!マークや?マークを喚起する力が、われわれの創り出すものにも備わっていればいいなと願っています。そうしてA-POCというのは、実はそういう存在なのではないかと思いはじめているんです」 *芸術新潮 2000年8月号

青木がA-POCについて一応理解できたのは、デザイン大賞受賞の段階ではなく、2001年秋に催されたA-POCの何回目かの内覧会であった、これ内覧会自体は新商品の販売促進を目的にしたものであるが、ここで藤原大さん(A-POCのプロデューサー、デザイナー)が一枚の布を煮てみせるというパフォーマンスを演じた。煮あがってみると、Tシャツの立体が現れた。「本当はこんなに簡単じゃないんですが、まあ糸に工夫があるのです」と。温度によって伸縮の具合が変わる糸を組み合わせたものと思うが、これを見た時青木は、三宅さんと藤原さんは「布の中にかたちが、糸の中にかたちを創りたかったのだ」と、やっと気づいた。

近代のデザインは、フォルム(かたち)を操作する技術として生まれた。そのフォルム自体が消費の対象とされたことで(正しくはそう仕向けていったことで)、私たちの社会は大きく発展はした。しかしその一方で、様々な問題を抱え込むこととなった。藤原さんは述べる。「一つのデザインを実現するにあたって、どれほど多くの服地を探さなければならないか、その服地を作るためにどれほど多くの糸が費やされなければならないか」。
フォルムを実現するためにマテリアルを探すのではない。A-POCはマテリアルの中にフォルムを見いだそうとしている。少なくともその両者を同時的に捉えようとしている。そこに「21世紀のポイエシス」を考えていく一端が、窺えるのではなかろうか。

A-POC



●三宅一生
1938年広島生まれ。多摩美術大学図案科卒業。65年パリに留学し、69年までパリ、次いでニューヨークでデザイナーとして活躍。73年からパリ・コレクションに参加。
以来「一枚の布」というコンセプトをもとに、近年の「プリーズプリーツ」「A-POC」まで、つねに自由で開かれたデザインを発表し続けている。

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