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 11. 「無理難題」を解く
 


11 デザインの知再考「無理難題」を解くミッシングリンク (1)



この授業「インダストリアルデザイン」では、産業化社会におけるデザインの発生とその発達を紹介し、さらには地球環境や人間中心に取り組むデザインの現在を考察してきました。いわば過去から現在へかけての「知の発達」という視点から、デザインという思想・方法論について解説してきたわけですが、その終章では、21世紀の社会をより豊かに発展させるために、デザインを如何に活用していくべきかについて、少し述べておきたいと思います。

言うまでもなく、私達の社会は様々な「ひずみ」を抱えています。それを切り捨てるのではなく、その「ひずみ」を痛みとして受けとめながら、産業や社会の新しいあり方を提示していく思想・方法論として、デザインに期待が寄せられているものと思われます。
では、なぜデザインにそのことができるか?
以下「無理難題」という言葉をキーワードに、デザインの知を再考してみましょう。この結論は、「難題だけであるなら工学的アプローチで可能、しかし無理がつくからデザインの出番」(デザイナーの山中俊治さんの発言)となるのですが。


○無理難題に立ち向かう

たとえば一例として、高齢者を対象とした介護という身近な問題を取り上げてみましょう。
高齢者の介護は私達に重くのしかかる課題です。家族のみでは解決できないゆえに、ある種の「社会的システム」が求められています。現在そのシステムをビジネス(収益的な事業)として実践する試みがおこなわれていますが、ここでも「質の高いサービスとローコスト化」「お年寄りの精神的な満足と介助者の負担」など、様々に矛盾した要求に直面していると思われます。介護保険制度を前提とすると、均質的なサービスを効率よく回転させることがビジネス上有利となるようです。しかしその解答では、お年寄りの人間としての尊厳を確保することは難しい。といって、質が違う個別的要求を各々解決しようとすれば、ビジネスは成立しない。
一方、介護を引き受ける一人一人は、システムやビジネスの論理のみで働いているわけではありません。「いままで憮然としていたおばあさんが微笑んだ」といった、ちょっとした仕種のなかに喜びを感じている、というより、そうした人間的な喜びに出会えるから、きつい仕事に耐えられるのです。「あなたの祖母は介護保険では何級です。もう少し身体が弱れば級が上がり補助が増えます」と。それは社会全体として見た場合、一定の正当性を持つとは思いつつも、システムの持つ冷たさを感じる瞬間です。この身近な課題に解決策はあるのでしょうか。
介護の事例に限らず、人間を対象とする事象、人間が関わるものごとには二律背反以上の複雑な関係があり、常に「無理難題」を解き明かしていくこと(デザインしていくこと)が、求められているのです。

一口に「無理難題」といいますが、「それは難題だ」と「そいつは無理だ」とは、似ているようでニュアンスが違います。「難題」は文字通り解くのが難しいこと。逆に言えば時間をかけ条件を整理していけば解けなくはない、という意味でしょう。一方「無理だ」は、はじめから解くことを捨てています。よく「私には無理だ」という言い方をしますが、これは私にはその能力がないと一見謙遜しているようで、実は問いかけた相手との間に共通する土俵がない、俗な言い方をすれば、そこまでする気持ちも、義務も、メリットもないという意味で使います。これも逆に言えば、共感なりメリットなりを見いだすことができるなら、「無理」は「難題」へと変わり得るものと思います。
「無理」を承知の巧い説得とは、相手に「無理だ」とは言わせないこと。しかも相手の義理なりメリットなりを声高に主張するのではなく、そっと気づかせることが求められているようです。そうした知恵の繰り方、つまり次元の異なるもの同士、この話で言えば相手と私の間に「何らかの橋渡し」をする知恵・思考が、実はデザインなのではないでしょうか。


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