「3次元的な造形」をつくりあげていくには、スケッチ、モデル、CAD など様々な方法がある。昭和40年頃、日本経済の高度成長を背景に商品開発点数も急増するにつれ、デザインそれ自体にも、効率の良い造形開発手法が求められるようになった。ここでアメリカから導入された手法が「レンダリング」である。
松下電器の電気掃除機「ハイクリーンD」(1965)は、この「レンダリング技法」を用いて(はじめて)開発された機種である。
商品のデザインが始まったばかりの頃は、3 次元造形を考えていくために、絵画的な技法(鉛筆淡彩など)がとられていた。この表現方法は豊かではあるが、個人の技量に差がありすぎるし、また相互に比較しにくい。そこでGM のデザイン部門を中心にプロダクト・デザインを表現する「レンダリング」(ハイライト・レンダリング。マーカーを使い素材感、立体感を表現する技法)という技法が、日本にも導入されていく。
「ハイクリーンD」は、この「レンダリング」手法をアメリカから導入し開発された最初の商品である(ゆえに何となく自動車のように見える)。「レンダリング」は表現方法であると同時に、アイデアを相互比較し、練り込んでいくというデザイン評価手法、開発手法でもあった。たとえば、数人のデザイナーでまずスケッチを描き、それを相互比較し絞り込んでレンダリングを書き、また絞り込んでモデルをつくり、といった効率的なマネージメント方法でもある。
「ハイクリーンD」のもう1つのポイントは、掃除機が敷居を飛び越えるといった「日本的一工夫」(日本の使用環境に合わせた改善)がなされている点であろう。というより、アメリカから招聘したデザイナー* 1(アラン島崎氏)がもってきた掃除機が日本家屋の敷居につまずき、よくひっくり返ったことがヒントになっているというが、集塵袋が一杯になると知らせてくれる窓、ピンや針を吸着する磁石、障子用の付属品も付くといった細かな工夫も加えられる。使用状況を考えてデザインすることも、またアメリカからの導入であった。
ここに、海外にモデルがある機器に便利さを導く「日本的一工夫」を加え、「レンダリング」という技法を用いて造形するというデザインの進め方(デザインの量産体制)が完成されていった。* 2
GKの西沢氏にレンダリングの登場について尋ねたところ、「当時はデザインしなきゃならないものが山のように寄せられていた。ともかく忙しすぎた。だからこれで便利になったと思っちゃったんだよね」とのこと。「レンダリング」は、3 次元造形物を面と面との関係から顕そうとした技法であり、経験を積んだデザイナーならその質的差異を読みとることができる。デザイナーにとって便利で、デザインの大量生産手法としては、極めて有効な手法であったことは間違いない。ただ、商品の意味性の開発を担う(ある意味で思想を育んでいく)造形技法足り得たのだろうか。
「レンダリング」に限らないが、特定の技法、手法は、ものの見方、考え方を固定化する。今日のCAD の多用にも、こうした傾向がないとは言えない。
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○ハイクリーンD
W198xH248xD541mm 6.7kg
1965 18,500 円
日本初のオールプラスティックの掃除機でもある。2年間で63万台という爆発的ヒットを記録。
*1
松下電器は、アラン島崎氏、ジョセフ糠沢氏など、日系二世のデザイナーを招聘し、外部協力会社的なデザイン事務所「インターナショナル工業デザイン」を設立する。
*2
レンダリング技法を用いて「相互比較、絞り込み」をおこなうデザイン開発方法は、今日でも企業の中で一般的に行われている
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