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◆ 夢の楽園
ダーガーが夢見続け、少女たちの物語の終着地として設定していたパラダイスには、花々が咲き乱れ、永遠の平穏が約束されています。あたたかい気候と、あふれる笑顔と、仲間たち。子供たちが望む幸福は、いつでも、とてもシンプルなものなのです。
会場風景 【 21 】
グランデリニアンの支配時代の銅像を、皆で引き倒そうとしています。子供を絞め殺す大人たちをモチーフにした、趣味の悪い像。その生々しさは、つくりものとは思えないような不穏さを醸し出しています。 どこかトロイの木馬のような…実際、他の作品では、この内部に仕掛けられた爆弾が爆発する描写もあります。
大人たちの頭に載せられた学帽のようなものは、きちんとした教育を受けられなかったダーガーのコンプレックスの顕れでしょうか。
作品画像 【 22 】
過去に自然災害を避けて逃げ込んだ、あのシェルターに似た建物の内部。たくさんの仲間が集まり、巨大な花や果物が舞い、お祭りのような状態になっています。横長の画面や屋内の描写は、どこか日本の絵巻物を彷彿とさせます。
少女たちの表情は一様に明るいのですが、コミックス風の吹き出しに納められた台詞には穏やかならざるものが。
「早く彼女を助けないと!」「木の蔓があの子たちの頸に!」…等々。しかし、まだ誰もそれに気がついていません。左奥ではその言葉のとおり、一人の少女が蔓に絞められています。その左では「私がこの子を抑えているあいだに、早く!」と、ブレンギンを攫う計画を立てている大人の女性が。
一度はハッピーエンドを構想したものの、やがて自分で作った楽園に不穏分子を混ぜ込み始めるダーガー。終わらない物語を紡いでゆくための苦肉の策だったのでしょうか。世界を護るために争いの種を蒔くその視点は、現実世界の神のもののようです。
作品画像 【 23 】
毎年、初夏を迎えることになると、身の回りにある植物たちのエネルギーに驚かされます。目を離したすきに思いがけない大きさに成長する夏草。ぎょっとさせられるような鮮やかな色彩。
あの、制御できない自然の生命力に憶える畏怖の感触と同じものが、この作品にも溢れています。天敵を滅ぼしたことで、植物も少女たちも生命力を解き放ち、思うさま増殖しています。
ダーガーの作品の謎めいた要素のひとつ、”同一のモチーフの増殖”。
後期の作品になるほど顕著にみられる傾向です。
相似形が複製されてゆくという自然のルールそのものを描こうとしたのでしょうか? それとも、喪っても喪いきれないだけを生み出しておかなくては不安だったのでしょうか?
しかし、どんな人間でも、なにかを選択して日々を生き継ぎながら、誰かにとってはヒーロー、他の何かにとっては残虐非道なグランデリニアン、はたまた別の存在にとってはそれを護る立場のブレンギンとして、外見は同じながらも内面では分裂・増殖し、多重に存在しているものであるのかもしれません。
彼はただ、もう一度、生き別れた妹に会って遊びたいだけだったのかもしれない。そのために巨大な王国を築き物語を紡ぎ、自分自身をもその内部に閉じこめた。それを思うとやるせない気持ちになります。
彼が孤独の中に生きた老人というのはあくまで客観的な印象でしかなくて、実際には彼は、ひとが一生で出逢い関わりをもつ人間の数をはるかに凌駕する数の生物に囲まれ、忙しくも賑やかな生活を送っていたのかもしれません。ただ、その群衆の中心に、ひとりの少年の姿が見えるように思えるのです。物語をつくり始めた19歳の頃ではなく、もっとずっと小さな頃の、現実に挫かれる前の幼い彼。その少年と会話ができる小さな女の子が私のなかにはいるように感じられるのに、それを伝えるすべがもう無いことが切ないのです。もしもなんらかのかたちで、生前の彼に伝えることができたなら、あの死亡者や負傷者を記録していたノートに、「転入:1名」と書いてくれたでしょうか。

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「ヘンリー ダーガー 少女たちの戦いの物語-夢の楽園」
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会場:原美術館
会期:2007年4月14日(土)〜7月16日(月・祝)
休館日:月曜日(ただし4月30日、7月16日は開館し翌日休館)
時間:11時〜17時(祝日を除く水曜は20時まで)
観覧料:一般1000円、大高生700円、小中生500円
URL:http://www.haramuseum.or.jp/generalTop.html
問い合わせ:03-3445-0651(代表)
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【 22 】 Henry Darger (C) Kiyoko Lerner (写真22〜23)


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