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第23回
「オラファー エリアソン 影の光」展

 update 2006.01.18

リポート : 八木あすか / 美術・デザインライター 




自然界(含む人間)の要素や現象を利用した、有機的なインスタレーション作品で知られるオラファー・エリアソン。ユトレヒトの街にふたつの夕陽を沈ませたり、ストックホルムの河をあざやかな碧色に“戻し”たり。最近では、テート・モダンでの“The Weather Project”、あの霧に包まれた巨大な太陽が記憶に新しいところです。アイデアはシンプル、仕組みは精緻、そしてインパクトは限りなく巨大で…。永続的な余韻を鑑賞者の感覚に残します。

今回の個展の舞台は原美術館。室内展示ということもあり、ひとつひとつの舞台は小さめなのですが、そのぶん空間の認識や概念が覆される醍醐味は濃く、マクロにミクロにと揺さぶられる感覚の振れ幅は大きくなっています。


美/Beauty 【 1 】
1993
フレネルランプ、水、パイプ、ノズル、ホース、アルミニウム
© Olafur Eliasson
原美術館展示風景
黒い筺のような部屋に足を踏み入れると、かすかなささめきが耳朶をうち、心地よい湿り気が全身にしっとりと絡みついてきます。それだけでもう、この水と光が闇のなかで密談をかわしているような暗室の一部にとりこまれてしまったような心地に。

部屋の最奥には、絹糸のような艶をたたえた霧のカーテンに浮かびあがる虹が。鑑賞者の歩みに合わせて、生きているかのように妖しく揺らめくさまは、虹は空をわたっていく水の神(龍)の化身であるという伝説を思いおこさせます。
この場合、龍に生命を与えているのは他ならぬ鑑賞者自身。虹は、空気中の水滴に入射した光が波長ごとの角度で反射したものを、ひとの眼がとらえることで成立するものなのですから。その存在も動きも、観ている人だけのものなのです。自分だけのもの、だからでしょうか。つい手をのばし、触れてみたいと思ってしまうのは…。
しかし、七色の帯は、手をのばすほどに遠ざかり、目をこらすほどにぼやけてしまいます。あと少しで掴めそうでも、うっかり自分自身(の指先)にピントが合ってしまうと、あっという間に逃げていってしまう、美のイデア。
静かに“美”と向き合っていると、そのなかにさまざまなものが投影されてみえてきます。古くは白雪姫の魔女が使い、「はてしない物語」ではアトレイユとバスチアンがこれを通して同時にお互いをみとめ、ハリーが賢者の石の部屋で勇気をふりしぼって覗き込んだ、あれらの鏡と同じ性質があるもののようです。

※注意深く眼をこらすと、メインの虹の上部に、色の順がちょうど逆になった“副虹”を観ることができます!



円を描く虹/Round rainbow 【 2 】
2005
アクリル、HMIスポットライト、モーター、三脚、アイリス絞り
photo Jens Ziehe 2005
© Olafur Eliasson
原美術館展示風景

自転するアクリルの輪とスポットライト。ごくシンプルなつくりながら、光と影と色彩が次々に描きだす輪廻の世界はどこまでも広く深く、気がつくとそのなかに呑み込まれて自前の感覚や概念がすっかり融解し、あたらしい自由な文脈の宇宙に放り出されていました。
意思を持った白い光が影に切り込んだかと思うと、原初の曙が空を染めあげ、色彩の息子たちが世界を駆け抜けていきます。
そのなかで、光のなかに着床したり、虹色の縁でダンスを踊ったり、きらめく細胞液の海を泳いだり、惑星のフレアに揺られたりしながら、なにかの誕生の瞬間にたちあっているような、世界の最期の走馬灯を見届けているような、アンビバレントな心地にただただ酔うばかりでした。


次ページに続く





美/Beauty
【 1 】 美/Beauty
1993
フレネルランプ、水、パイプ、ノズル、ホース、アルミニウム
© Olafur Eliasson
原美術館展示風景

円を描く虹/Round rainbow
【 2 】 円を描く虹/Round rainbow
2005
アクリル、HMIスポットライト、モーター、三脚、アイリス絞り
photo Jens Ziehe 2005
© Olafur Eliasson
原美術館展示風景



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