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第2回 (2)
モネ、ルノワールと印象派展





「アルジャントゥイユの鉄橋」 【 6〜7 】 は、ルノワールとモネとがキャンバスを並べて描いた作品で、まったく同じ構図ゆえに個人としての主題・アプローチの違いがはっきり出ていて興味深いものがあります。
ルノワール版のほうは、橋と河とが織り成すやわらかな方向性、光と時間の流れという、静かだけれども動的なものを感じます。空に響く自動車の音、橋げたに反響する河音も聴こえてくるようです。
対してモネ版のほうは、とても静的な印象。水面のリアルなきらめきや鉄の硬い質感、そこに硬く反射する光など、瞬間を切り取ったものになっています。

“橋”“鉄橋”という、いかにも無機質な人工物は、印象派のモチーフとしては若干異質なもののようにも思えます。しかし、これが彼らの時代的テーマでもありました。彼らは、自然物では出せない画面の分断のされ方に“水平方向の異分子”として前向きな新しさを感じ、日本画にみられる大胆な構図を試すときのベースに利用していったということです。
そして、冒頭で述べた、ボードレールの“現代性の記録”という役割。その時代の新しい技術の記録、という側面もあったようです。


瞬間を封じ込めることにこだわり、そのなかに永遠性を見出そうとしたモネ。
感じたものを感覚どおりにつなぎとめられるようさまざまな工夫を凝らし、色彩分割(筆触分割)の原理を利用するとともに、強く反射する不透明絵の具を使用するようになりました(ルノワールとは逆のアプローチですね)。
補色を並置するとさらに明るさが増すという原理も巧みに利用しています。

モネの作品には、“技法と個人的なテーマとの幸福な調和”そのものが顕れているかのようです。
モネたちによって経験的に開発されたものが、スーラの時代になると、シュヴルール等の科学理論に後押しされて完成。そして、その後発展的解体をして行きます。


対象物を通して、明と暗との対照そのものをも描き出したピサロ、シスレー。
ピサロ「エラニーのレンガ工場」 【 8 】 はその極みといえるかもしれません。
点描画の静謐さと刺激性の両面があいまみえ、絵画から発せられる逆光に目が眩みそうになります。

同じ点描法を用いる画家でも、ピサロは光と影を追い求めつつも具象的な描写が残っていましたが、シニャック、クロスになると再現性はぐっと薄れてきます。
システマチックに配置され始めた色彩。一見、技術にひっぱられて感性が置いていかれているように見えますが、対象の固有色を離れたところでの色彩の選択には画家の個人的判断がみられることから、印象派の精神の発展形であると感じられます。


シニャック「サモア付近、川べり、朝」 【 9 】 は、スペクトルのすべてをつぎ込んだような色彩の展開が美しい作品です。エメラルドグリーンと水色とピンク、多くの人が“夢”を思う時に脳内で生産されるのではないか、という色を散りばめています。うっとりと、絵画自体を呼吸したくなる作品です。

シニャックは制作時期や作品によって点描の筆致を微妙に変えていて、色彩の効果を実験しているかのようです。

「レ・ザンドリのガイヤール城」 【 10 】 は、かなり構成的な作品。シュブルールの工房で、このままゴブラン織りの織物にしてもらえそうです。

「ポン・デザール、パリ」 【 11 】 は、ステンドグラスかタイルのような印象の分割・配置が行われています。ガラスのような質感・透明感を感じさせる色彩。ミヒャエル・エンデの「ジムボタン」シリーズには、色とりどりのガラスでできた樹が登場しますが、その世界を彷彿とさせる幻想的な風合いです。

「海の税関」 【 12 】 は、雲の表現などが童話風になってきています。大胆な筆致からは、自らの見出した表現方法に自信があるのがうかがえて、それが小気味のよい洒脱さにつながっています。


“印象”とは、対象物ではなくて、観る人間の心のほうにきざすもの。
その心の動きを、時代背景とともに記録するのが、印象派の画家たちの追究した絵画の役割でした。
印象派の絵画の持つ“生っぽさ”は、描かれたものや表現方法ではなく、そこに移りこんだ画家の感覚が発するものなのです。何世紀経っても、多くの人の心に訴える理由はここにあるのでしょう。
そして、“瞬間”を記録したときに、日本だと“諸行無常”の精神が介入してきそうなところを、とにかく現象・変化を生の悦びとして受けとめている精神が、ひょっとしたら日本人の憧れを誘っているのかもしれません。

ともあれ、大雑把にすぎるかもしれませんが、“印象派の絵画は人を幸福にする絵画である”と結論づけたくなる展示会でした。





 モネ、ルノワールと印象派展

 会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
 会期:2004年2月7日〜5月9日
 休館:会期中無休
 時間:10:00〜19:00 金曜、土曜日は21:00まで(入場は閉館30分前まで)
 入場:一般.1,300円
 URL:http://www.impressionist.jp/


関連イベント情報





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【 6 】 「アルジャントゥイユの鉄橋」
オーギュスト・ルノワール 1873
上原近代美術館蔵

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【 7 】 「アルジャントゥイユの鉄橋」
クロード・モネ 1873

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【 8 】 「エラニーのレンガ工場」
カミーユ・ピサロ 1888

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【 9 】 「サモア付近、川べり、朝」
ポール・シニャック 1901

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【 10 】 「レ・ザンドリのガイヤール城」
ポール・シニャック 1921

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【 11 】 「ポン・デザール、パリ」
ポール・シニャック 1925

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【 12 】 「海の税関」
ポール・シニャック 1923



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