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デザインリポート
都市の食欲 サードプレイスの行方
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 サードプレイスの行方
 


第2回 (2)
スターバックスが掲げるサードプレイス





■ 「世界標準空間」としてのスターバックス
長野市在住の塚田まゆりさんは、「スタバはイケてる街の印」との思いから、「スターバックスを呼ぶ会」を作り、誘致のため5,000人分の署名を集めて日本法人の社長に手渡した。スターバックスの有無が街の「都会度」を測る指標になるというのである。塚田さんは力説する。「スタバは身近に体験できる都会であり、海外なんです」 * 2 。住民の熱い思いを受け、長野駅前店が開店し、「初日の売り上げ世界一」の記録を達成した。開店前の午前5時半から行列ができ、3000円の福袋も飛ぶように売れた * 3 。長野県民にとってのスターバックスは「長野という街が世界水準の都会であること」の証だというのだ。

都市生活者の衣食住を支える生活施設としてのチェーン店であるスターバックスの洗礼を受けることが、その街が「都会」に認定されるプロセスにおいて必要ということはわかる。スターバックスに限らず、チェーン店の進出度合いは地方都市の生活を大きく変える。どこに住んでいようとも、インターネットを使えば、世界中のあらゆる情報に時差も関係なく瞬時にアクセスすることができる今の私たちの状態では、地元では意識しない訛りを東京に行った途端意識し「標準語」を意識して使おうとするように、「世界標準」という空間概念がここに誕生しているのである。


■ 日本市場への参入
1.流行の素地
今から6年前、スターバックスが銀座の松屋の裏に第1号店をオープンさせた。当時、顧客のほとんどは若い女性か外国人ビジネスマンだった。若者たちは実際にアメリカに旅行や留学で行ってスターバックスを既に知っていた。もしくは「アリーmyラブ」などのアメリカTVドラマに度々登場するのを見て、どんな店なのか知っていた。スターバックスは、シカゴやNYといったアメリカの大都市で颯爽と働くシティ・ガールが会社前に立ち寄る場所、かっこいいビジネスマンの息抜きの場所として、彼女たちの頭の中にきっちりと刷り込まれていた。流行の発信源は若い女性の口コミである。スターバックスは都会の若者のあいだで急速に浸透していった。

2.ケータイされるスターバックス・ロゴ
モバイル可能なリッド蓋つきカップは、飲み歩きに適しており、また冷めづらい。この便利さと新しいデザインが受けて、スタバのカップはどんどん都市空間へ積極的に持ち出された。店内が混み合っていて、座席が確保できなかったことや、全席店内禁煙であることもそれを加速させた。またいち早く流行の最先端の飲み物を飲んでいるところを誰かに見せびらかしたいという気持ちもあったのだろう、若者たちは店先や道端にあふれだし、ところかまわずスターバックスを楽しんだ。こうしてスタバのロゴはケータイされ、コピーされ、あっという間に都市に伝播された。ロゴ付きカップだけではない。スターバックスが東京上陸した直後は、スタバのロゴをあしらったオリジナルバッグが飛ぶように売れていた。カップなら飲み終わったら捨てられてしまうが、布のバッグなら長い間持ち歩かれる。商品だけではない。スタバマニアは、スタバ店内の醸し出す「おしゃれな雰囲気」や「都会の空気」を、カップと一緒に街中やオフィスへと持ち出した。次第に、スタバのカップを持ち歩く若者の姿がおしゃれなライフスタイルの象徴となったり、スターバックスはファッション・アイコンとして認知されるようになった。

3.都市的な雰囲気を演出する“ファッション・アイコン”
その噂が口コミで広まり、各店に行列ができるようになると、TVや雑誌がそれを煽った。独特のオーダーの仕方やラテやモカという新しい飲み物をマスコミが次々に特集で紹介していった。ファッション雑誌は、スターバックスの店内を「おしゃれな都市空間」と見立てて撮影に使い、スタバのカップをモデルに持たせた。これらはすべて「都会を颯爽と歩くカッコいい女の子」を演出する小道具であった。例えば吉田脩一著「パーク・ライフ」 * 4 では“スタバ女”と呼ばれる女が登場する。主人公はある日、電車で出会った印象的な女性と偶然再会する。その女性はスターバックスをいつも飲んでいる。しかし彼女は意外にも「スターバックスってあまり好きじゃない」と言う。
「あの店に座ってコーヒーなんかを飲んでいると次から次に女性客が入ってくるでしょ?それがぜんぶ私に見えるの。一種の自己嫌悪ね」
「女性客たちの姿に近寄り難いオーラを感じた。彼女たちの共通点は、ふつう喫茶店にひとりで入ればまず窓際の席を探し、飽きることなく通りを眺めるはずだが、誰一人として店の外へ目を向けている者がいないのだ。外へ目を向けないだけではない。彼女たちは一様に高そうな服をセンスよく着こなし、髪型にしろメイクにしろ、テーブルに置かれた小物類にしろ、非のうちどころがないほど洗練されているというのに、その誰もが「私を見ないで」という雰囲気をからだから発散させていた」
ちなみに「パーク・ライフ」が発表されたのは、2002年である。彼女らの発する「近寄りがたさ」とは、自意識の裏返しであり都市的舞台で演じることへの抵抗ではないだろうか。スタバという場所の“都市的舞台”機能については承知しているけれども、日本にスタバができてからもう随分たったし、そもそもそのずっと前から私たちはスタバはよく知っているのよ、もはやこれは「舞台」ではなく「日常」なのだから、そこで演じることはごめんだわ、という逆説的な過剰演技に映る。店舗数の急増に比例してスターバックスは東京の街に定着し、それに反比例するようにしてプレミア感は減少した。そして今や東京人にとって、日常生活になくてはならない生活サービス施設となったといえるだろう。

4.ネットワーク店舗網拡大による浸透とブランドの陳腐化
チェーン展開することで、日本の街中でスターバックスの店舗はクローンのようにコピーされ、増殖していく。顧客にとってチェーン店の最大のメリットは、入店前に体験が予想できるという点にある。そこが初めて訪れる店であっても、同じ看板を掲げている店なら、おどおどしなくてもいい。オーダーの勝手もすべてわかっている。店内の雰囲気もサービスも一緒だ。はずれがない。安心だ。チェーン展開はブランドの市場への浸透をはかるには有効な手段だが、ある意味では「均質化」を意味し、ブランドは「大衆化」へと向い、常に目新しい体験を求める人種には飽きられてしまう。とはいえ、まだ存在価値はある。女性ひとりで気軽に入れ、リーズナブルな値段でちょっとしたリッチ気分を味わえる居心地の良い空間は、ほかにはない。だが、もっと質実剛健にするか、多機能空間を目指すべきなのだろう。それを見越したスターバックスは、最近本屋や銀行とコラボレーションした店舗やドライブスルー型の新業態を作ったりして、努力を重ねている。













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