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お子さんの急病により、残念ながら手塚由比氏は欠席となりましたが、手塚貴晴氏による講義はユーモアにあふれ、笑いの絶えない2時間になりました。
“思い入れのある家”を建てる
貴晴氏はイギリスの建築家リチャード・ロジャース氏に師事して、ロンドン大学バートレット校に進学した由比氏も、ロンドンで暮らした経験があります。「ロンドンは、人の生活が豊かになれる街です」。特にロンドンの川沿いには、カフェやパブなどが並び、散歩をするだけで楽しめたといいます。「昔は日本にも良い街並みや川沿いの生活がありましたが、今は失われてしまいました。驚くべきことは、京都を壊したのは戦争の爆撃ではなく、日本人自身なのです。なぜそのようなことをしたかというと、生活に対する思い入れがなくなってしまったから。家と人の生活がつながっているということを、戦後の教育の中で失ってしまったからです。
人は、思い入れのあるものを大事にします。建物は自然に壊れるものではありません。住んでいる人は『もういいや』と思い入れがなくなると、建物を壊してしまいます」。そこで貴晴氏は“思い入れのある家”を作っていこうと考えました。「一番大事なのは、使う人や住む人が『これは私たちの意志で作ったんだぞ』『自分が考えたんだぞ』と思えるような家を作ることです」
[事例1] 屋根の家
「屋根の上でご飯を食べられる家が欲しい」というユニークな施主一家の家を作った経緯が語られました。
「まず、平屋の上に屋根をかけると、屋根は家の中よりも大きなデッキになりました。これは大発見です。

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 「以前の家では窓から屋根へ出ていたというので、天窓から屋根へ出られるようにしました」と貴晴氏。 | 
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もうひとつ大事なのは、この屋根が傾いていることです。多摩川に行くと、カップルは大体斜面に座っています。同じ景色を見ているから話題ができるし、斜めだと座りやすい。というわけで、屋根は屋上と違って傾いていないといけません」
材料は、同じものを使い回しすると安くあがります。一番安い材料は10.5cm角の角材。そこで、何でもその角材を使って作ろうということに。角材を井桁(いげた)に組む構造とすることで、梁が不要になり、屋根を非常に薄くできました。「なぜ薄い屋根が大事かというと、『薄い屋根からすっと頭を出すと違う生活がある』というのがいいから」

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 「屋根の家」の構造は池田昌弘氏、照明は角館政英氏。「ひとつの照明にひとつの生活。ひとつの天窓にひとりの人」と、可動式の裸電球を使用。 | 
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屋根の軒はぎりぎりまで低くして、庭から料理を持って屋根に上れるように梯子をかけました。「屋根の家を中心に、だんだんとコミュニティーができてくるのが面白い。隣の家の庭がすぐそばなので、屋根の上で食事をしていると、隣のおじさんが『こんにちは』といいながらビールと一緒に上ってくるそうです」
「誰もがわかるアイデアを考えること、使う側の人が『こんなのがあったらいいな』、『気持ちいいな』とストレートに感じられるものが大事です」。注意すべきは、「誰もがわかる」イコール「常識」ではないこと。最近の建築の常識では、決まったサイズの窓、細かく分けられた部屋、風が抜けない家、高気密高断熱などが当たり前ですが、それはただの刷り込みです。「刷り込みによって今まで見過ごしていた、『本当はみんなが気持ちいい』があるはずです。それを見つけていくのは楽しい」
[事例2] 越後松之山“森の学校”キョロロ
続いて、冬には5mもの積雪がある越後松之山の棚田を再生して建てられた自然科学館が紹介されました。
人は自然の中を観察するとき、道を歩いて、立ち止まりながら色々なものを見ていきます。そこで、自然科学館を棚田の道筋に沿って建て、角を曲がるごとに大きな窓を設けることで、来館者が越後松之山の素晴らしい自然そのものを観察できるようにしました。建物外壁および屋根の特徴的な茶色は、コールテン鋼(こう)という特殊な鉄の色です。 建物は最深部で10mの雪に埋もれることになるので、ジョイント部分から雪水が浸み込まないように、潜水艦のように鉄板を全溶接しています。この「重さ2,000tの鉄の塊」は、夏と冬の温度差により20cmずつ伸び縮みするので、放っておくと森の中に歩いて行ってしまいます。「建物の3箇所をピン止めして、同じ場所で伸び縮みする尺取虫のようにしました」
キョロロの側面は、大小さまざまの一枚窓で切り取られています。一番大きい窓は14m×7mで、一枚窓としては世界最大。

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 「アクリルは、ガラスの4倍の透明度。外の景色がそのままポンと中に飛び込んでくる、自然を捕まえるのに素晴らしい窓です」
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「この建物の周りを除雪するだけで、年間2,000万円かかります。そこで除雪はしないで、雪に閉じ込められた様子を窓から見られるように、窓を大きくとりました」。雪に埋もれても大丈夫なように、ガラス窓ではなくアクリル窓を採用。
開館当初は、職員が習慣で雪かきをしてしまってなかなか雪が積もらなかったそうです。窓の意図を説明して何とか雪かきをやめてもらい、やっと窓のてっぺんまで雪が積もると、氷と化した雪を通してブルーの光が差し込み、とても美しい効果が。「我々が建物を作るときは、建物の形よりも『(建築で)何ができるのか』に興味を持ちます」
[事例3] 八王子の家
「昔の家は、中・外・中・外・・・とずっとつながって、常に風が抜ける構造になっており、空調機が必要ありませんでした。『今、そういうものができないだろうか?』と考えたのが、“八王子の家”です」
八王子の家は、外・中・外・中・外という構造で、部屋の両側が外に対して開くようになっています。「これはまさしく、日本の町屋のあり方なんです。 日本の町屋というのは、中庭があってプライバシーが保てているんですが、実は風通しがよかった。これは西洋の中庭とは全く違うところですね」
施主の「いつもトイレかお風呂にいる」という言葉から、「では、いいお風呂を作りましょう」ということでできたのが、中庭の露天風呂。カーテンを閉めれば完全なプライバシーを保てます。施主はこのお風呂を非常に気に入って、休みの日は12時間ぐらい入っているそうです。
「何かを作りたいなと思っている人の、ちょっとした言葉を捕まえて、それを大事に膨らませてあげると、すごく一生懸命使ってくれるんです」

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手塚貴晴 (てづか たかはる)
1964年東京都生まれ。1987年武蔵工業大学卒業。1990年ペンシルバニア大学大学院修了。1990〜94年リチャード・ロジャース・パートナーシップ・ロンドン勤務。1994年手塚建築企画を手塚由比と共同設立(現手塚建築研究所)。1996年武蔵工業大学専任講師。2003年武蔵工業大学助教授。
○「副島病院」で通産商業大臣賞グッドデザイン賞金賞、1998年日本建築学会作品選奨賞 他
○「鎌倉山の家」で2000年東京建築士会住宅建築賞
○「屋根の家」で2002年第18回吉岡賞、JIA新人賞、日本建築学会作品選奨賞
○「越後松之山『森の学校キョロロ』」でコンペ 1等入選、日本建築学会作品選奨賞
など受賞多数。



「屋根の家」 30坪の家に40坪の木デッキが。この屋根の上に食卓やキッチン、シャワーまで備えています。



「屋根の家」 軒の低い側(写真左手)は、一面ガラス戸の開放的なリビング。反対側は、可動間仕切りで隔てられるワンルーム感覚の居室。



「越後松之山“森の学校”キョロロ」 越後妻有アートトリエンナーレ2003の際に作られたキョロロ。外壁・屋根に使用されたコールテン鋼とは、鉄は不純物が含まれていると錆びないところに注目して商品化された“錆びない鉄”です。年月とともに表面だけが茶色に変色していきます。



「越後松之山“森の学校”キョロロ」 窓の外に雪が積もった状態。



「八王子の家」 部屋の両側に窓があり風通しがいい。写真左手が、施主の一言から生まれた大きな露天風呂。
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