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続いては「打ち合わせをしたわけではないが、古谷先生とまったく同じようなことを考えていた」という、等々力在住の松村氏。
世田谷の現状を踏まえて
現在、松村氏は分譲マンション住まい。「分譲マンションや民間での開発が世田谷に多いのは、自分の住む空間を所有したいという強い願望の現れです」。しかし、これらがこの先続いていくかというと、もう対応できないほど世田谷の開発は進んでしまっています。開発が進んだ結果、土地が極限まで細分化されてしまっているので、複数人が所有する土地をまとめないと、新しい開発ができないのです。隣近所全員がまとまらないと土地が売れないので、結局、土地は建物が建ったまま流動しなくなっています。そこで、建物、道、緑、公共施設など、今あるものをどう利用していくかが、暮らしを考える上で重要なテーマになってきます。
ここでキーワードになるのが、“リノベーション”と“コンバージョン”。「リノベーションとは、今ある建物を同じ用途のまま、例えばマンションならマンションのままで、環境を改善し豊かにしていく、あるいは時代の要求に合わせていくことです。コンバージョンとは、同様に今ある建物を利用しますが、用途を変えていく場合のことです」
リノベーション
住宅のリノベーション 海外の現状
30〜40年経った集合住宅、海外ではどう利用しているのでしょうか。松村氏がこの問題を調査したきっかけは、1970年代に建てられたスウェーデンの公的集合住宅のリノベーションのレポートを目にしたこと。「このリノベーションでは、外壁に外断熱で断熱材をつけ、その外側に外装材をつけて仕上げています。さらに窓のサッシやガラスを取り替えて、断熱性能を上げています。また、外付けで増築することで、内部空間も広げています。最終的に、まったく違う建物に生まれ変わっていたのです」
このように、大規模なリノベーションが海外で行われているのは「このままでは大変なことになると気づいたためです」。紹介されたアメリカの事例では、30〜40年前は1000〜2000世帯ほどが住んでいた非常に大規模な団地でも、今はもう誰も住んでいません。 「建物が劣化していくと、補修が必要です。この事例は賃貸なので、補修費は家賃に上乗せされました。しかし、値上がりした家賃を払える人なら、もっといいところに引っ越します。残るのは家賃が払えない人だけです」。取り壊す費用もなく、最終的には“うち捨てられた街”となってしまいます。これは、アメリカだけで起きていることではありません。「“うち捨てられた街”となる前に、手を打っていくことが必要です」 例えば、スウェーデンでは、空室が増えて経営困難になってしまった集合住宅をデベロッパーが買い取り、リノベーションして新しい付加価値を与えた上で運用しています。
統計によると、日本では人口1000人あたり毎年約10戸を新しく家を建てている計算になります。これに対して、イギリスでは約3戸、フランスやドイツで約5戸、アメリカでも約6戸です。 (※右の写真参照) 「建築学科の学生に言っていることですが、これまでのような1000人いれば10戸建つ世界は続きません。イギリスのように1000人あたり3戸建つ世界になるとしたら、卒業後どうやって生きていくのかを考えると、『再生』する仕事、つまりリノベーションが当然出てきます」。別の統計で一年間の住宅投資に対する増改築(リノベーション)の占める割合を見ると、日本の10%に対して、イギリスでは65%に達しています。
コンバージョン
デパートや独身寮が高齢者用の居住施設に
ここ10年ほど、日本全体で、大型店舗に客を奪われた街中のデパートは次々閉鎖しています。そしてその建物の多くが、放置された状態です。「ある医療法人は、その建物を買い取り、内部を高齢者用の居住施設に変えてしまいました。元デパートには、『内部空間が非常に大きい』『立地が良い』『周辺には医療施設が多く、また繁華街がある』など、多くの利便性があります。また、建物が余っているので、値段も安くなっています」
独身寮も非常に簡単に高齢者用居住施設へとコンバージョンできます。「バブルの頃の大手企業は、非常に良い場所に数多く独身寮を建てていました。そして、バブル後に手放された独身寮を高齢者用居住施設へとコンバージョンするビジネスが、7〜8年前から登場しています」。独身寮には個室があり、大きなお風呂、食堂、専門業者が入れるキッチンなどの必要な設備もそろっているので、エレベーターや階段、水周りをバリアフリーにするなど、最低限の工事を行うだけで、建物の利用形態を変えることができます。
オフィスを住宅にする効用
松村氏は、ここ4年ほど、空いているオフィスを住宅に変えるコンバージョンを行っています。「というのは、オフィスが供給過剰で、15年ぐらい前から空室率が上がってきているのです。ここで重要なのは、空室率には地域格差があり、常に満室の地域があればほとんど空室の地域もあるということです」。オフィスも住宅も、常に人気のある地域やない地域があります。そこで、オフィスとしては借り手がなくても、都心部で駅に近くて利便性が高い地域では、住宅としての需要がある場合があります。
しかし、日本の建築業界はリノベーションやコンバージョンに慣れていないので、新築同様の費用がかかるのではないかと躊躇しているようです。「事実、日本はこの分野で遅れています。ニューヨーク、シカゴ、パリ、ロンドンなどの各国の都市では、1990年代の前半には過剰なオフィスを抱え始めました。そしてこの10年ほどの間に、どんどん住宅にコンバージョンしています」
コンバージョンの面白いところは、いままで住宅がなかったような場所に住めるところ。また、マンションではありえなかった非常に大きな空間を作って、新しい使い方ができるのも魅力です。
街の再生に求められる公的サポート
廃墟化していたデトロイトのダウンタウンは、個々のオーナーがそれぞれのビルへのプライベートな投資を、公共がスタジアムや広場へのパブリックな投資をすることで、相乗効果により住宅へのコンバージョンが成功した例です。「自分のマンションだけきれいになっても、うれしくありません。環境には切れ目がないのですから、公共と協力し合って、相乗効果で地域全体を良くしていくことが大切です」
「また、マンションにある種の公共性が認められる以上、マンションの再生に公的なサポートがあってもよい」と松村氏は考えます。「マンションは放っておけば劣化していくので、各住民の合意の下に補修などを行い、建物の価値を創出していくことになります。しかし、住民の合意を形成していくには、ある種の客観性を持ってリードするプロが必要です。この合意形成というソフトの面で、ある程度公的なサポートを入れていくことは、非常に重要なことです。海外のコンバージョンの事例では、どこでも必ず何らかの公共のサポートがあります。なぜなら、放っておくと街が死んでいってしまうからです」
都市の再生には、住民と行政、双方が街の現状に対して理解を深める必要があるようです。


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松村 秀一 (まつむら しゅういち)
1957年兵庫県生まれ。1980年東京大学工学部建築学科卒業。1985年同校大学院光学系研究か建築学専攻修了。1989年から東京大学大学院工学系研究科建築学専攻助教授。1992年ローマ大学客員教授。1996年トレント大学客員教授。専門分野は建築構法、建築生産。
主な著書に『「住宅」という考え方 -20世紀的住宅の系譜-』(東京大学出版会 1999年)、『団地再生 -甦る欧米の集合住宅』(彰国社 2001年)、『コンバージョンによる都市再生』(共著 日刊建設通信新聞社 2002年)、『建築学の教科書』(共著 彰国社 2003年)、『建築の向こう側』(共著 TOTO出版 2003年)、『建築生産』(共著 市ヶ谷出版社 2004年)など多数。



海外での集合住宅について調査するきっかけとなった、スウェーデンの公的集合住宅のリノベーション。写真はリノベーション前の様子。



人口1000人当たりの住宅着工数のデータ。 (※)



デパートを高齢者用施設にコンバージョンした例。



こちらは独身寮から高齢者用施設にコンバージョン。



海外のリノベーション、コンバージョンの事例が豊富に紹介されました。



質疑応答では、都市部での賃貸住宅の重要性やリノベーション、コンバージョンに関する資金補助・法整備などの問題が語られました。
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