ジャパンデザインネットのトップページ
リポート
暮らしとデザイン2004
 ジャパンデザインネット
 リポート
 JDNリポート
 

 page │  1  2 


あらゆる都市で建物による都市再生が行われている現在。バブルの崩壊から10年以上経過し、少子高齢化が現実のものとなるなど確実に社会は変革を迎えています。都心居住の傾向にあるなかで、世田谷の街を活性化させるには何が必要なのでしょう。世田谷に暮らす2人の専門家、古谷氏と松村氏が語ります。





昭和30年生まれの古谷氏は、世田谷に生まれ育ち、高度成長期以前の世田谷を知っている世代です。そんな古谷氏の考える“世田谷における都市再生”とは?

キーワードは“ハイパー・コンプレックス・シティ”
ハイパー・コンプレックス・シティとは、ありとあらゆる人が多様な活動をしていて、居住だけでなく生産などすべてがまぜこぜになった、高度に複合した状態のこと。「この状態がうまくできあがれば、世田谷は魅力的なところになるのではないでしょうか」
20世紀モダニズムの時代は、健康で快適な住居を、近代的な考えで理論的に実現していくというものでした。しかし、合理的に計画・作成したマスタープランを実現するまでには、長い工事期間を待たなくてはなりません。「我慢して待っている時間もわれわれが生活する時間ではないのか。工事している状態は過渡的な状態ではなく、むしろ自然な状態であると思い直さなければならない。何年もかかってマスタープランを実現するだけでは、我々にとって快適で幸せな都市はできないのです」


マスタープランでは実現できない空間 -タイの路上から-




タイの線路沿いに形成されたマーケットでは、電車がやってくると人々はテントをたたみ、電車が通り過ぎるとまたテントを張って、何事もなかったかのようにマーケットを再開します。これは、長い時間をかけて自然にできあがった状態であり、マスタープランでは実現できない空間の事例です。
「僕たちはこの事例から学ばなければならない。これからの世田谷を考えていくときに、行政や専門家がすべてを協議するのではなく、使う側が今ここにある環境をどうやって30倍ぐらいに使いこなしていくか、という使い方が問われているのです」


[事例1] Baumhaus (バウムハウス)
世田谷のほとんどの賃貸集合住宅では、不特定多数の人が借り手となるため、特定の嗜好に偏らない、ほどほどの設備が用意されています。しかし、万人が「ほどほど」と思うことはありえません。
古谷氏が設計した三宿の賃貸集合住宅「バウムハウス」に用意されているのは、必要最低限のものだけ。キッチンには流しとレンジフードのみ、下駄箱や押入れなどがない代わりに、自由に使える2つの箱が置かれています。「空箱に、入居者の持ち物で、入居者の気に入った生活空間を自由に作れるようにしたのがバウムハウスです。退去するときには、すべてをトラックに積んで出て行くだけで、原状回復できます」
続いて、「空箱のような空間」にロフトを追加した上下2層3棟からなる「高円寺南アパート」も紹介されました。

[事例2] 代田の切り通し
この賃貸集合住宅のプロジェクトで古谷氏が目を付けたのは、間口の非常に狭い、急斜面にある土地でした。




「比較的安価な土地を有効活用するために、日影規制上許される最大のボリュームをとってスイカのように縦に切り、7戸の賃貸集合住宅を作りました。最大のボリュームをとるために、建物を山なりに傾斜させていることが造形のポイントになっています」
南側が小学校に隣接するなど、外部と密接した環境にあるため、水周りや階段などの諸設備を配置する北側にも光が通るようにして、開放感が得られるデザインにしています。

[事例3] ZIG HOUSE/ZAG HOUSE
古谷氏は、祖父の代から住んでいる世田谷の土地に、ご両親との二世帯住宅を新築しています。昔から植えてある木を残すために、全体的な形状をジグザクに。屋内は、前述の賃貸集合住宅と同様に、「空箱のような空間」に家具を自由にアレンジできるようになっています。

細い道路は子供たちの遊び場
古谷氏は近所の道路の様子を紹介しながら、“建築基準法第42条第2項道路”の「保存運動」を提唱しました。




防災上の観点から、すべての“建築基準法第42条第2項道路”を幅員4m以上に工事すると、車が入り込むようになり、昔からある子供の遊び場が失われてしまいます。「防災上有効な場合は道幅を広げる。それ以外の細い道は細いまま保存しておいて、交通以外の目的で使いこなす。両者が混ざった状態が必要なのです。それがハイパーコンプレックスの状態です」
建築基準法では、防災上の理由などで本来4m以上の道路でなければ建築することが出来ません。しかし、4m未満の道でも、この法律ができる以前(昭和25年)から建物の立ち並んでいた道については、その救済のため道路の中心線から2mのところを道路境界線とみなします。

最後に、ヴェネチア生まれの建築家カルロ・スカルパについて言及しました。「20世紀近代建築のさなかに活躍しながら、スカルパは、作品の8割以上でそこにある古い建物を改修したり、インテリアを再利用しています」。冒頭のタイの事例と同様に、新旧多種多様なものが並び立つことによって、あるひとまとまりの空間ができていると解説。「これらの事例が、世田谷の都市再生のヒントになるのでは」と結びました。





古谷誠章 氏

古谷 誠章 (ふるや のぶあき)
1955年東京都生まれ。1978年早稲田大学建築学科卒業。1980年同校大学院修了。1986〜87年文化庁芸術家在外研修員として、マリオ・ボッタ事務所に在籍。1994年早稲田大学理工学部助教授。NASCA設立。1994年早稲田大学教授。
1991年「狐ヶ城の家」で第8回吉岡賞、1997年「香北町立やなせたかし記念館 詩とメルヘン絵本館」で日本建築家協会新人賞、2000年「香北町立やなせたかし記念館 アンパンマンミュージアム+詩とメルヘン絵本館」で日本建築学会作品選奨、「早稲田大学會津八一記念博物館」(2002年 日本建築学会作品選奨)、「ZIG HOUSE/ZAG HOUSE」(2003年 日本建築学会作品選奨)、「近藤内科病院」(2004年 日本建築学会作品選奨)など多数。主な著書に『建築を見る / 谷口吉生 「丸亀市現代美術館・図書館」』(彰国社 2001年)、『Shuffled 古谷誠章の建築ノート』(TOTO出版 2002年)などがある。




「Baumhaus」
必要最低限の設備にとどめて、入居者の暮らし方を尊重。ほとんど壁もないので、もし将来リノベーションが必要になっても費用が抑えられ、そもそもリノベーションの必要性もあまり生じません。



「代田の切り通し」
大きな弧を描く屋根と細長い形が特徴的。



「ZIG HOUSE/ZAG HOUSE」
床板や壁板には、実験的に奥多摩の間伐材で作る編成材の厚板を使用しています。



「ZIG HOUSE/ZAG HOUSE」 外観。



イタリアの建築家、カルロ・スカルパが改修した古城。






 page │  1  2 

→ n e x t 松村秀一氏



JDNとは広告掲載について求人広告掲載お問合せ個人情報保護方針ウェブサイト利用規定サイトマップ
デザインのお仕事コンテスト情報 登竜門展覧会情報

Copyright(c)1997 JDN
このwebサイトの全ての内容について、一切の転載・改変を禁じます。